「ヘルメス」分類の美点(小)

《優等生/Adept Laboratory Student》

内容:

 他者の研究書巻(lab text)に基づいて、呪文や呪付を再現するとき、研究値に大きなボーナスがつきます。

第四版からの変化:

 この美点自体は四版とまったく同じです。ただし、第四版の研究書巻は「研究値増加」というルールでしたから、「開発期間の最小化」に変わった第五版では、この美点も若干位置づけが異なってきます。

コメント:

 五版では通常、自力でできないことは研究書巻のガイドがあってもできないのですが、この美点があれば、実力以上のプロジェクトにも手を出せます。反面、自分にもできる範囲の事柄には、研究書巻を使えば研究値の超過が1だろうが10だろうが変わらないのですから、この美点はまったく意味をなしません。私見では微妙にコスト負けな感じ(ボーナスが+10くらいあれば即取りなんですが)

 とにかく研究書巻が手に入らなければ仕方がないので、コヴナントの蔵書やコネを充実させるように。魔術団内の社会的な条件に左右されますから、《有能な師匠/Skilled Parens》《ヘルメスの威光/Hermetic Prestige》なんかがあるとよさそう。
 また呪付でなく呪文の場合、この美点で強引に修得しても、唱えられなければ意味がないわけで、《メルクリウス魔法/Mercurian Magic》《生命燃焼/Life Boost》《優秀な発動法/Method Caster》といった詠唱を補助する美点も役立つでしょう。

 キャラクター的にはいわゆる秀才に似合います。ダメダメな劣等生とか、常識にとらわれない天才肌とか、傍若無人な野生児とか、そういうPCが他にいると、互いに引き立てあって面白いでしょうね。《お節介焼き/Meddler》な委員長タイプにして、アウトローな仲間をなんとなく放っとけない、というのも黄金パターンかも。(こういうのは最初から、トループ内で示し合わせて仕込みたいものです)。

《素質(術法)/ Affinity with Art》

内容:

 対象の術法について、取得経験値を1.5倍します。二回まで取得できますが、一つの術法に重複はダメ。

第四版からの変化:

 根本的な書き直しです。四版では、独立した能力(ability)として経験値をつぎこみ、そのレベルを判定値に上乗せという形。ですから、名前は違っても、五版で言えば《魔術の専門分野/Magical Focus》《強化(術法)/Puissant Art》が直接の後継者といえます。
 また、五版は成長速度が全般に低く抑えられていますから、これを持っていてはじめて、四版時代の普通の成長速度といった感覚かも。

コメント:

 使いやすく強力です。四版時代に続いてポピュラーな美点となるでしょう。取得経験値が1.5倍ということは、逆にいえば、通常の2/3の経験値で成長できるということ。20まで上げると70exp.儲けている計算になります。
 それを踏まえて、最大のライバルは《強化(術法)/Puissant Art》です。両者比べると、値が15に達するまでは《強化》が、16からは《素質》が有利となります。完全な専門家として造型するなら、単純に両者併用すればいい話ですが、コスト的に苦しい場合には、これを目安にキャラの将来設計に照らして選択しましょう。

《慎重な魔術師/Cautious Sorcerer》

内容:

 魔法関連のボッチダイスがすべて3つ減少し、破滅的な失敗をしづらくなります。(ただしこの美点単独では、最低1つは残ります)。

第四版からの変化:

 コストは+2から+1相当へ安くなり、しかも効き目が1つ減少から3つ減少に増大しています。ただこれも、四版時代があまりにヘタレだっただけで、ある意味当然のこと…。

コメント:

 「ボッチするかしないか」という観点でみると、3つ減っても約3%しか変わりません。もっとも、3重・4重といった大きなボッチを単なるボッチに緩和する意味も潜在的に含んでいますから、確実に安全になってはいます。
 この辺りの評価は、人によって分かれるところでしょうね。定式呪文を習熟するなどして、最初からボッチの余地を潰してしまえというアプローチなら、まったく不要な美点ですし、逆に、強いオーラやレギオーの影響下で魔法を使うことが多かったり、研究室で積極的に実験(arcane experiments/p.107)かましたりするなら、少なくともコスト分は役立ちそうです。

 文字通り慎重で手抜かりのないキャラに似合います。あるいは、理論的な素地の裏付けなり、天性のセンスなりが、予測や対応の幅を広げているととることもできましょうか。

《正の周期魔術/Cyclic Magic (positive)》

内容:

 魔力が月の満ち欠けや季節の移ろいなど、特定の自然の周期と同調しています。魔力が強まる時期には、呪文や研究値にボーナス。

第四版からの変化:

 コスト可変の美点という概念が消失したため、+1相当に固定となりました。一方で、得られるボーナス量が据え置きで、コストは半額値下げです。まあこのくらいで妥当でしょう。あと、バランスとは関係ないですが、各季節の研究値に適用されるか否かの基準が明示されたのが嬉しい。

コメント:

 性能的にも上々ですし、なにより物語的に美しい美点です。たとえば、ビョルネール派の心物やメリニータ派のドライアドとして、春夏に生い茂り秋冬に葉を散らす落葉樹。他にも夜の女王とか、円卓の騎士ガウェインとか。この手のネタは枚挙にいとまがありません。

 対になる《負の周期魔術/Cyclic Magic (negative)》とセットで取るのがオススメ。《魔法抵抗の弱点/Weak Magic Resistance》など、他の美点欠点もそれを軸に構成するとスタイリッシュです。

《巧みな形相/Deft Form》

内容:

 対象の形相について、呪文の詠唱や身振りを省いてもペナルティを受けません。

第四版からの変化:

 コスト据え置きのまま、ペナルティ半減から完全解消に出世しました。
 ただし、形相(form)限定になり、技法(technique)を対象にとれなくなりました。破壊系フランボーの皆様はご愁傷様です。

コメント:

 《素質(術法)/Affinity with Art》などと同じく、専門家タイプのマギが取ることになるでしょう。使う術法が限られているなら、たった1点で詠唱や身振りの拘束が無くなるのですから、とても便利です。

 ルールブックの本文では、動物などに変身していて詠唱や身振りができないケースを示唆していますが、そうした状況が頻繁に生ずるビョルネール派なら、むしろ《静かな魔法/Quiet Magic》《目につきにくい魔法/Subtle Magic》にコスト3点投下して、全術法のペナルティをまとめて消した方がいいと思います。

《長命な魔法/Enduring Magic》

内容:

 儀式以外の魔法の持続時間が1〜10倍になります。SGがダイスを隠して振って決めますので、どのくらい延びるかPL/PCには分かりません。

第四版からの変化:

 +3から+1へ大幅値下げで、持続の延び方も変わっていません。しかし、儀式魔法が対象外になったのが痛すぎ。ウィースによる持続増強ができなくなった今、持続「年」の儀式魔法を延ばせれば、ReVi“炉辺の守り”などで大活躍できたのに…。

コメント:

 「一瞬(momentary)」「集中(concentration)」「魔法円(Ring)」は時間に依存しませんし、また儀式以外では「年(year)」をとれないため、この美点が適用されるのは、実質的には「陽径(diameter)」「太陽(sun)」「月(moon)」の三つのみとなります。決して悪くはないんですが、そう考えるとなんかイマイチ。

 なお、別にこの美点の取得者にかぎりませんが、ヘルメス魔法は持続終了前に切ろうと思ったら、(たとえ術者自身でも)PeViなどのディスペル呪文をわざわざ使わねばなりません。持続が長すぎてマズイことになる可能性も一応あるので、そちらにも配慮を忘れずに。《手綱つき魔法/Harnessed Magic》をとってあれば、集中するだけで任意に消せます。

 亀とか千年樹とか、のんびりゆっくりな年寄りキャラに取らせると「らしい」ですかね。大地に根ざした Terram の専門家もグッド。

《エニグマ/The Enigma》

内容:

 クリーアモン派の追い求める「エニグマ」の知恵。同名の能力を取得できるようになり、謎解きや神秘現象の解釈に役立ちます。また、黄昏(twilight)に陥りやすくなる反面、それを有益な経験にできる可能性も高くなります。

第四版からの変化:

 クリーアモン派しかとれず、また他のマギは別にとりたいとも思わない、というルール的な位置づけは同じ。黄昏の進行を抑える(得る黄昏値を減らす)作用が無くなったため、余計そうなっています。(ちょっと違いますが、V:tMのマルカヴィアンとか、深淵の青龍の魔導師みたいな?)。WGREにあった入れ墨呪付などにも絡んでいましたが、五版だとその辺のルールは新しい Houses of Hermes あたりに載せるつもりなんでしょうか。

コメント:

 キャラクター的にというと、クリーアモン派のすべてになってしまい、ここでは扱いきれないので省略。ルール面で考えるべきは、黄昏にどういうスタンスをとるかですね。一度に2点以上の歪曲値(warping point)を得るのが黄昏発生のトリガー。一番ありうるシチュエーションは2重以上のボッチでしょうか。

 黄昏を積極的に評価して、それを悟りの糧にしようというなら、欠点《黄昏の誘い/Twilight Prone》をとるのがオススメです。〈エニグマ〉は黄昏の回避判定の際にペナルティになるわけですが、最初から抵抗しないことを選ぶなら無いも同じ(笑)
 お待ちかねの理解判定では、おおまかに言って、【知性】+〈エニグマ〉が現在の歪曲度(warping score)より、3点高ければ7割成功、5点高ければ8割成功となります。その辺りを目安にどうぞ。ただ歪曲値は通常どおりじゃんじゃか溜まっていきますので、太く短くが前提ですね(まぁ終末の黄昏を、避けるべきものでなく新たなるステージへの昇華と考えるんであれば、気にならないわけですが^^;)

 イカレた考えが別になく、黄昏を回避しきれなかった時の保険とするならば、〈エニグマ〉をほどほどに伸ばしながら、それ以上に〈集中力〉とVimを伸ばしていくことになるでしょう。その場合は美点《意思堅固/Strong-Willed》をとっておくと安心かも。

 いずれにせよ、魔術団の祖師13名の中で最強の魔力を誇っていたのがクリーアモンです。そしてそれだけの力を持ちながら、単なる通過点としてエニグマの深奥を求め続けた姿勢は、ぜひとも受け継ぎたいものです。『フェドソの旅程』はぜひとも熟読を(笑) これとかそれとかあれとか、あるいは謎かけのプレイには禅問答なんかもヒントになります。そしてまことの魔法使い…。

 余談ですが。
 黄昏は比喩的には、人生の中で遭遇した、生きるか死ぬかのギリギリの体験を表すものと思います。収容所に入れられたユダヤ人、
《まことの愛/True Love》を失った恋人、不登校になった子供、というような。かろうじて生き延びた人間は、そこから新たな境地を開くか(理解判定に成功)、トラウマになるか(同じく失敗)のどちらかなわけで。そういうことを起こりやすくし、また乗り越えやすくする〈エニグマ〉って、リアルの哲学に相当するように思います。

《妖精魔法/Faerie Magic》

内容:

 こちらはメリニータ派専用。妖精界と魔法界の両方に調和し、「条件/Until Condition」(特定の状況が発生するまで持続)や「血脈/bloodline」(対象の家系に子々孫々)といった特殊パラメータが使えるようになります。

第四版からの変化:

 四版では基本ルールブックに名前だけありながら、具体的なルールはサプリのWGREに記載という、ルーンクエスト並みのヒドイ美点でしたが、五版ではちゃんと中身まで基本ルール内に盛り込まれました。美点の内容からは、妖精の得意な術法が容易に、苦手な術法が困難になる、という部分が消えています。また、書籍や呪文のヘルメス/妖精の別がなくなり、それに関連するボーナスやペナルティも消えました。全体にまずまず、といったところではないかと。

コメント:

 追加される特殊パラメータ群は、昔語りの妖精っぽい呪文を作ろうとしたとき便利です。マンチ的にはどうということもないですが、物語の風合いとして楽しい。また、妖精界と魔法界の両方に調和するというのは案外に重要です。強い妖精オーラの中にいても、歪曲値が増えないからです。

 なお、妖精と縁がないと取得時に歪曲値を1点取らせられるので、《妖精の血脈/Faerie Blood》《濃い妖精の血/Strong Faerie Blood》《妖精郷育ち/Faerie Upbringing》などを一緒に取っておいた方が有利。

《機敏な術者/Fast Caster》

内容:

 通常より素早く呪文を編み上げることができ、呪文行使時のイニシアティブ値にボーナス。

第四版からの変化:

 単品ではまったく変わっていません。ただ、武器攻撃にレスポンスして速唱(fast cast)した場合に、間に合うかどうかは、四版時代はこの美点があってようやく五分五分という大変なバランスでしたが、五版では武器のイニシアティブ値がおおむね半減し、しかも武器技能も加えられなくなったため、楽勝です。

コメント:

 速唱が間に合うかどうかの判定はもちろん、戦闘時の行動順が上がるのは、武闘派のマギにとっては大いに意味があります。〈呪文操作〉を上げまくれば、1ラウンドに2回以上速唱を行うことも夢ではありません。定式呪文の習熟オプションの中には、速唱化も含まれていますから、それと組み合わせれば…。また、PeViを専攻して、敵の魔法効果をことごとくカウンターというのも面白いかも。

 一方で、行動順がいらず速唱だけの問題なら、《強化:呪文操作》でごまかした方が俄然応用がききます。またそもそも、戦うつもりのないマギには、ほとんど意味がありません。

《自由な研究/Free Study》

内容:

 ウィース研究で術法を成長させる際、得られる経験値がアップ。

第四版からの変化:

 ウィース研究のルールが変わったので、それに合わせてボーナスの数値も変わっています。総合環境で考えると、四版時よりも割り増し量が若干多い感じ。

コメント:

 ウィース研究は、ウィースを数ポーン消費するにもかかわらず、得られる経験値が読書と大差ありませんから、費用対効果の点で劣ります(おまけに術法の値が高くなるほど、消費するウィースの量も多くなる)。ただ、書物や教師と違って成長上限がないのがメリットで、効率上の優先順位が低いにもかかわらず、最後にはこれしか選択肢が残りません。ですので、平行する《読書家/Book Learner》が初歩〜中級の段階で役立つのに対して、こちらは上級になってから笑う美点といえます。

 キャラクター的には、先人の書物や教授に頼らず、独学で道を切り開いていく気性と器量をもったマギになるでしょう。さらに《勉強が苦手/Poor Student》をとって「本なんぞいらん」と叫ぶ造型もありますが、コヴナントの同僚から「ウィース喰い」と白い目で見られるのは必至です(まぁそれはそれで人間関係が生まれて面白いですけど)。いずれにせよ、コヴナントの潤沢なウィース収入や、《個人のウィース源/Personal Vis Source》が欲しいところです。
 またウィース研究は、魔法オーラが強いほど得られる経験値が増大し、7〜8点あれば読書等を引き離してぶっちぎりの高成長となります。ですからコヴナントには強いオーラも欲しいですね。ただ、オーラが強いとボッチもしやすくなります。《慎重な魔術師/Cautious Sorcerer》の出番か?

《手綱つき魔法/Harnessed Magic》

内容:

 自分の魔法や魔術物品なら、別途PeViを使わなくとも、集中するだけで任意に解くことができるようになります。一方でこの美点を持っていると、自分の死後に魔法や物品を残すことができません。

第四版からの変化:

 サプリのWGREが出典で、当時のコストは+3でした。効果はほとんど変わっていませんが、制作した魔術物品が(おそらくは永続的な)誘導呪物扱いになるという箇所が削られています。

コメント:

 この美点を取り巻く環境は微妙で、第四版だと自分のかけた呪文を対象とする魔法は、レベルが通常の半分で済んだのですが、第五版ではReViのガイドラインを除いて、そうした記述が見あたりません。この辺、SGの裁量にもよりますけれど、通常どおりのレベルが必要とされるのであれば、この美点はそれなりに重宝すると思います(自分の得意分野と同等の強度を、専門外のPeViでも出すのは割と大変なはず)。
 この美点を取らずにPeViでまかなう場合には、ガイドライン二つ目の「特定種の効果をディスペルする」を使い、その「特定種」を「自分のかけた呪文」として開発しておければ、少しは楽になります。なんだかバカらしい気もしますが、自分の尻くらいは自分で拭けないとね。

 自らの術に対して、制御が行き届いているということですから、キャラクター的にまず浮かぶのは、落ち着いた老賢者や理論家でしょう。もっとも、そういった人物がVimを苦手とするとは考えにくいですが…。
 あるいは、術と術者の距離が近い、一体となっている、というふうに捉えることもできます。そういう意味では、術というより生来の魔力っぽい化け物系のみなさま(ビョルネール派やメリニータ派にありそう)や、東洋でいう即身成仏みたいな方々(クリーアモン派?)でどうでしょうか。ま、実際は、《長命な魔法/Enduring Magic》持ちの保険というのがありがちでしょうけど…。

 ※"harness"は本来は牛馬のくびきのこと。分かりやすいようにあえて「手綱」と訳しています。

《心獣/Heartbeast》

内容:

 ビョルネール派専用。特定種の生物(動物でも植物でも)に任意に変身することができます。完全な変身であり、人間の姿ではCorpus、心獣の姿ではAnimal(or Herbam)と、対象にとられる術法すら変わります。
 人間と心獣と、二つながらに自らの本性とするので、どちらの姿をとっていても、変身魔法の影響下にあるとは見なされません。つまり、長期的な被曝として歪曲値が増えることはありませんし、正体を見破るIntellego呪文をかけられても意味がありません(なにせ両方が正体なんですから)。

 また、変身に熟達していることを表現して、MuCoを他人から食らっても、即座に歪曲値が増える「強力な魔法効果(=レベル30以上)」の要件を満たしたとは見なされずに済みます。

 一方で、心獣の持ち主は、使い魔をもつことができません。もっともビョルネール派の連中は、逆に普通のマギを、「代用心獣で手を打った可哀相な奴ら」と軽蔑しているようですが。

第四版からの変化:

 周辺の不利なルールを無効化する内容が加わった程度で、実質的に変化なし。
 バランスとは関係ないですが、細かい部分のルール裁定が明文化されたのは高く評価されていいと思います。

コメント:

 あらゆる点で通常のMuCo呪文を上回っています。素晴らしい。

 心獣は決めたら最後、死ぬまで変えられないので、よくよく考えて選びたいところです。とはいえ、なにせキャラ立ての軸になる部分ですから、大前提のコンセプトとして考えるまでもなく最初から決まっていることが多いですかね。有利不利うんぬんなんて吹っ飛ばして。
 なお、心獣に選択できるのは世俗の生物(mundane creature)だけですので、「わしの心獣ドラゴンね」とか言って暴れないように(^^;) 出版元 Atlas Games のサイトで無料公開されているPDFファイル、Book of Mundane Beasts から選ぶと便利です。動物の種類に不足を感じたら、4版時のサプリですが、Medieval Bestiary RE に手を伸ばせばよろしい。

 ちなみに、祖師ビョルネールの心獣は熊でした。そのため彼女は火が苦手で(結局死ぬまで火花程度しか起こせませんでした)、弟子たちも子々孫々Ignemを不得意とする者が多いようです。
 そういえばWGREの付則法の章には、西暦1200年ライン管区評議会の議事として、「コヴナント内の分担を果たせなかったのは、冬眠しなきゃいけなかったからだ」と弁明するビョルネール派マギの話もあったような。いやはや。

 なお、心獣の姿をとっていると、人間のときと違って詠唱も身振りもできませんから、そのままだと呪文行使に−15のペナルティです。《静かな魔法/Quiet Magic》《目につきにくい魔法/Subtle Magic》、あるいは《巧みな形相/Deft form》の取得を検討すべきでしょう。それが勿体なければ、心獣でも言葉を話せるようにする定式呪文、これを準備する手もあります。四版WGRE所収のMuAn(Co)25“ビョルネールの声/Voice for Bjornaer”なんかが好例。

《ヘルメスの威光/Hermetic Prestige》

内容:

 輝かしい経歴のために、他のマギたちから尊敬され、期待され、妬まれます。

第四版からの変化:

 この美点自体は変化ありませんが、評判のルールが弱体化してしまいました。四版では評判の点数がそのまま交渉判定への修正になっていましたが、五版ではそれが消えて、「その人の噂を聞いたことがあるかないか」という程度になっていますから。
 ただ、貴重なスロットを問答無用でこれで潰されていたボニサグス派諸氏の怨嗟の声が届いたのでしょうか、強制取得のルールは消えました。代わりに今度は審問士派がかぶってしまいましたが、無料でもらえるのですからまだいいということで。

コメント:

 リアルでいうと東大卒とか、チャイコフスキー・コンクール優勝とか、そういうのに当たりますかね。もしくは本人の力でない、親の七光り系でもかまいません(裏切られた揚げ句に「坊やだからさ」とか言われそうですが^^;)

 ルール的な裏打ちが少ないので、役に立つかどうかはトループのプレイスタイル次第です。まぁ有利不利は別にしても、人間関係を豊かに含んでいるだけに、トループ全体でまめに絡めていけば、プレイを面白くしてくれるのは間違いないでしょう。

《動物を怒らせない/Inoffensive to Animals》

内容:

 天稟による社交ペナルティが、動物には適用されなくなります。人間には通常どおり。

第四版からの変化:

 完全上位互換の《穏和な天稟/Gentle Gift》が+1の最低価格だった四版では、この美点の存在する余地はなく、逆バージョンの《動物を怒らせる/Offensive to Animals》しかありませんでした。《穏和な天稟》の劇的な値上がりに伴って、隙間材として配備されたものと思われます。

コメント:

 群れを引き連れる狼のビョルネール派とか、雑集派の鳥使いとか、猫屋敷とか、そういうマギを作る際にお役立ち。これがないと動物がまともに相手してくれませんから、ムツゴロウさんになりたいマギは必須です。《穏和な天稟》でもいいんですが、あれは高いですからね。人間とつきあわないなら、こちらを選んで節約したいものです。
 また、p.24のサンプルキャラを見るかぎり、通常の《天稟/The Gift》だけでなく、《露骨な天稟/Blatant Gift》でも打ち消せる模様。人付き合いを完全に捨てるつもりなら、そちらとの併載も検討の余地あり。

 なお、相手が幻獣であれば、性格にもよりますが、とりあえず天稟の悪影響自体は自前の魔法抵抗でカットしてくれるケースが多いです。つまり《友なる魔獣/Magical Animal Companion》や使い魔と仲良くするなら、素のマギでも大丈夫ということ。それ以外の普通の動物と戯れるつもりがなければ、この美点を取る必要はないでしょう。

《発想の天分/Inventive Genius》

内容:

 呪文を開発したり魔術物品を作ったりする際に、研究値にボーナスがつきます。実験(arcane experiment, p.107)かますと、ボーナス量はさらにアップ。

第四版からの変化:

 四版ではどーみてもコスト不相応だろうという優遇ぶりでしたが、改版に当たってもまったく変化なし。ボーナスの適用対象の中に、ルールが消えたはずの秘薬(potion)まで入っているのはご愛敬^^;

 ただ一方で、《才覚/knack》の後継である《強化/Puissant》の対象に〈魔術理論〉をとるのが、ボニサグス派以外にも解禁されました。それにかぎらず、美点全般の性能が上がった五版において、四版から変化なしとなると、ライバルが増える結果になります。四版時代のように何も考えずに取って吉というわけにはいかない模様。

コメント:

 ひらめきのある天才肌に似合います。世に跋扈するマッドサイエンティストたちも、みんなこれを標準装備しているハズ。逆に、教えられたとおりにしっかりこなすタイプなら、これでなく《優等生/Adept Laboratory Student》を選ぶべきかと。
 また、《発想の天分》のメリットは全術法に適用されることにありますから、ほぼ単一の術法しか使わないつもりの極端なスペシャリストには、その術法を対象にした《素質/Affinity》《強化/Puissant》の方が有利な場面は多いはずです。同様に、〈魔術理論〉を対象にした《強化/Puissant》等なら、研究室の大半に適用されますので、そちらとの比較も考えるべき。もちろん、これらはそれぞれボーナスのつく箇所が別々で、ゆえにスタックさせることが可能ですので、全部搭載することも考えられていいわけですが。

 こうしたライバルたちの中にあってこの美点を選ぶからには、実験時のボーナス拡大も積極的に利用したいところです。であれば、実験のリスクを軽減する《慎重な魔術師/Cautious Sorcerer》との組み合わせは検討する価値があるでしょう。まぁ《強靱/Tough》《耐性/(Greater or Lesser) Immunity》を取って、爆発しまくりってのもロマンですがね(^^;)

《生命燃焼/Life Boost》

内容:

 生命力(具体的には疲労度や耐久度)を消耗することで、定式呪文行使の判定値を大きく上げることができます。

第四版からの変化:

 判定値の上昇幅が半減しました。この美点に依らない、ウィース消費による上昇幅も同様に半減していますから、そちらとバランスをとったのでしょう。コストは+3から+1相当へと大幅値下げです。妥当なところかと。

コメント:

 いわば《生命直結魔術/Life-Linked Spontaneous Magic》の定式呪文版です。判定値の上昇は突破力の増大に直結しますから、魔法抵抗が優劣を決する魔術戦では、まさに切り札となります。判定式の関係で、定式は即興よりも強力な効果を起こしやすいだけに、小の美点でありながら、純粋な戦闘力だけで見れば大の《生命直結魔術》以上の脅威。フランボー派など武闘派のマギなら、持っていれば役立つときが必ず来ます。燃える血潮の熱い漢はぜひ取りましょう(笑)

 突破力以外の使い道というと…あんまり無いかも。修得できた呪文は行使も楽にできるのが普通ですからね。あえて言えば、高い〈魔術理論〉と《優等生/Adept Laboratory Student》 などで、強引に修得した高レベルの呪文を唱えるときくらいでしょうか。また、強い神聖オーラ内や詠唱/身振りの省略など、行使に負荷がかかる状況でも役立つ可能性があります。

《魔術の専門分野(狭)/Minor Magical Focus》

内容:

 専門分野をもち、そのテーマに関わる魔法や研究室活動に大きなボーナスがつきます。これもいわゆる「低い方を倍」系の美点。

第四版からの変化:

 四版でポピュラーだった《魔術との親和/Affinity with Magic》の実質的な後継機種がこれですね。+1〜+4という可変コストでしたが、専門分野の広さを当てはめると、こちらは+1のものが該当します。コストは変わらず、ボーナスの量は目に見えてアップ。経験値も入れなくて良くなりましたし。

コメント:

 効果は大の《魔術の専門分野(広)/Major Magical Focus》と同じですが、専門分野が狭い場合にこちらになります。ですから、適用されたときは大なみということで、小の美点の中では際だった効き目をみせます。《強化(術法)/Puissant (Art) 》《素質(術法)/Affinity with Art》を併載した場合と比べても、《強化》+《素質》が優るのは本当に最初だけ。5+3 vs 4×2 の段階でもう互角で、それ以上は《専門分野》が有利となります。
 実際、こうした「低い方を倍」系の美点はマンチの温床で、先日(05/02/10)のBerkListでも話題になりましたが、関連美点を満載すると、作ったばかりの新米フランボーでも、行使値81・習熟4のBoAFをぶっぱなせるんだそうです。まぁそれしか能がないわけですが。

 なお、この美点は広にせよ狭にせよ、適用対象が珍しく自由記述式になっています。これすなわち、ヘルメス魔法の根本原理である15の術法から逸脱しているということ。そこから考えると、正統から外れた雑集派の面々や、あるいは逆に、従来の魔術理論の及ばない分野を切り開こうとする最先端の研究者なんかに似合いそうです。また、ビョルネール派で、自分の心獣の動物を対象にとったりするのもアリかと。
 それと、この美点は、大の《神秘の血脈/Mythic Blood》を取った際にも、おまけとして付いてきます。キャラクター的・コスト的に条件が合うなら、そちらで大きく包摂することも検討してみましょう。

 ところでトレメーレ派は、ケルターメンを対象として、この美点を無料で自動取得します。くれぐれも連中とケルターメンはしないように。トレメーレ派に流派外から中途参入するには、こうした猛者をケルターメンで3人抜きしないといけないのですが、ハッキリ言って無理ッス。参入できた者が過去一人もいないというのも頷ける…。

一点分からないのが、制約術法(requisite)がらみの扱い。平行する《魔術の専門分野(広)/Major Magical Focus》とは矛盾する処理が書かれています。統一漏れか、それとも狭の方は性能も若干落ちるんでしょうか? 狭の記述をそのまま採る場合は、《元素魔法/Elemental Magic》の制約術法緩和の機能が役に立つかも。  050612追記:この件、新たにエラッタが出まして、広バージョンと同じ処理に統一されました。デザイナーのD. Chart氏によると、狭バージョンの性能を低めに抑えるために、わざと処理を違えておいたのだそうですが、どうもユーザーには不評で、このたびのエラッタ発表となった模様。

《魔術の記憶/Magical Memory》

内容:

 魔術にかけては記憶力が良く、過去に自分のやったプロジェクトに関しては、研究書巻(lab text)を失くしても平気です。

第四版からの変化:

 即興呪文時に自動的に類似呪文を知っている扱いになるというメリットが消えた一方、魔術以外の事柄を忘れっぽくなるというデメリットも無くなりました。コストは+3から+1相当へ値下がり。

コメント:

 通常のプレイで意味を持つとしたら、他人に研究書巻を譲る際に、原本を直接渡してしまえるので、筆写する手間が省けるというくらいでしょうか。あるいは、実験を誤って研究室がずどばーんと爆発したり、ドラゴンに襲われて焼け出されたりしても、裸一貫からの再起が可能です(笑)

 …というわけで、正直なところ、役に立つ局面がほとんど浮かびません。いいアイディアがありましたら、木霊す声あたりでどうぞご一報を。

《習熟呪文/Mastered Spells》

内容:

 呪文の習熟にのみ充てられる初期経験値をもらえます。複数回取得可。

第四版からの変化:

 単品では変化なし。経験値の実数こそ増えていますが、スケールが変わっているので、実際の効き目は同じです。一方で、周辺環境まで含めてみれば、習熟の効果が大きく広がりましたから、かなり株を上げたのではないでしょうか。

コメント:

 大の《無欠な魔法/Flawless Magic》の下位バージョン。兄貴分と違って作成時の一時金だけで、プレイ開始後には何らボーナスをもらえません。複数回取得可とは言っても、実際のところ、2回以上取るくらいなら最初から《無欠な魔法》にしておいた方が断然お徳だと思います。

 あと、ルールブック本文には、《無欠な魔法》と重ね取りすると、この《習熟呪文》でもらえる経験点がふくらむなんて書いてあります。たしかにメリットのあるコンボではありますが、しかしそんなにたくさん習熟の経験点が必要なキャラって珍しいのでは。

 そう考えると、使い道は案外限られてきますね。コストとの妥協でとりあえず今あるレパートリーだけあればいいやと+1のみ取得するケースか、もしくは、一つしか選択できないヘルメスの大のスロットが他の美点で埋まっているケース、この二つくらいでしょうか。

《独自の発動法/Method Caster》

内容:

 特定の詠唱方法をとることで、定式呪文の行使判定にボーナス。

第四版からの変化:

 「コスト=ボーナス値」での可変型から、+1相当に固定になりました。そのかわりボーナス量は大幅増です。

コメント:

 ビミョーな美点が続きます。なんというか優等生的な効果なので、堅実な反面、地味なんですよね。《発想の天分/Inventive Genius》と引き比べても適用範囲が明らかに狭いですし。それに、詠唱や身振りの大きさを変えても適用外になるというのは結構痛い。
 見方をかえると、「半段階ぶんの《生命燃焼/Life Boost》を疲労なしに常時発動」と等価。ここぞという局面での魔法抵抗の貫通に優れるそちらとは対照的に、《独自の発動法》は疲労軽減が主たる用途になります。突破力の日常的な上積みを求めているなら、〈突破〉を対象とする《強化/Puissant》も同時に検討しましょう(そちらは即興呪文にも適用されます)。

 設定的には、どんな個性的な詠唱方法なのか、そこが思案のしどころです。ルール上はどんな形であろうが大した違いはないのですが、キャラ立てするには絶好のチャンスですから、たっぷり凝って楽しんじゃいましょう。いずれにせよ、定式呪文の行使と修得に優れ、数多くのレパートリーを持つマギでこそ、真価を発揮する美点ですから、プレイ中に定式呪文をかけるシーンは多くなるはずです。裏返しの欠点《発動条件/Necessary Condition》と合わせて取るのも綺麗。
 なお、こうした詠唱方法の改良(?)が、ヘルメス魔法の標準からの逸脱にあたることは留意すべきです。正統派っぽいマギには似合いませんし、欠点《不可解な知識/Incomprehensible》を取るのを検討してみてもいいかも。

《個人のウィース源/Personal Vis Source》

内容:

 自分一人の好きに使えるウィース源をもっています。

第四版からの変化:

 《秘密のウィース源/SECRET Vis Source》から《個人のウィース源/PERSONAL Vis Source》へと変わり、設定面の許容度が広がりました。また、収量が年4ポーンから、コヴナントの初期収量にあわせて決定する形に変更。
 関連して、5版になってウィース自体については、全般に効力が下がり、かつ入手できる量も減っている傾向にあります。射程などの拡大ができなくなったので、メインになる用途は「儀式呪文」「呪付」「ウィース研究による術法の向上」、この三つくらいでしょうか。行使値上乗せによる突破力の増強もありますが、そちらが目当てなら別な美点の方がはるかに効率がいいです。

コメント:

 ウィース源については、p.190にサンプルが載っています。それに、Chad Chirhart氏編纂のVis Sources Listはなかなかグッド(氏のサイトはWWWからは消えてしまっていますので、Internet Archive にリンクしています)。また、うちの木霊す声の[12]にも関連した話題が出ています。キャラクターの立場や経歴に合わせて、物語の風合いとして楽しみましょう。

 一人で使える理由としては、他のマギたちに内緒なものはもちろん、管区評議会で認められた法的所有(権利証書とか師匠から相続とかあるでしょう)や、泉の主の妖精と個人的に交わした約定など、いろいろな可能性があります。物語の種になるので、ここも考えどころ。

 一方で、ゲーム的な観点からみると…割としょぼい美点かも。中くらいの力をもつコヴナントで、建設値(build point)を普通に割り振ると、ウィース収量は年20ポーン程度。その1/10ということは、年あたりたった2ポーンか!?
 もっとも、そのコヴナントにマギが5人いたとすれば、各人の割り当ては年4ポーン、これに2ポーン加わるなら当社比1.5倍!とも考えられますが。この辺はPCやPLによって評価が分かれるところでしょうね。

 あと最後に、これはかなりひねった変化球ですが、マギ自身がきわめて特殊な魔法的存在で、自らウィースを産するという語り方もあるかと思います。秋に黄金の林檎を実らせる樹とか、虹色の繭をつくる蚕とか。ビョルネール派の心獣/心物はもちろん、《神秘の血脈/Mythic Blood》《濃い妖精の血脈/Strong Faerie Blood》などと組み合わせて。

《強化(術法)/Puissant Art》

内容:

 対象の術法を行使する際、値を割り増し。二回まで取得できますが、一つの術法に重複はダメ。

第四版からの変化:

 これも一種、四版でポピュラーだった《魔術との親和/Affinity with Magic》の後継機種といえます。術法を対象にとるタイプですから、コストが+3ないし+4だったところ。かなり値下げな感じです。

コメント:

 エラッタで最初の一文が訂正されていますが、実際上の性能は同じです。

 《強化》と《素質(術法)/Affinity with Art》はやはり好敵手同士。向こうでも書きましたが、両者比べると、値が15に達するまでは《強化》が、16からは《素質》が有利です。同じ秀でているのでも、早熟にするか大器晩成にするか、キャラクターに合わせて選択するとよろしいかと。もちろん併載もOKですが。

 ちなみにこの美点は、フランボー派が Perdo または Ignem を対象に、メルケーレ派が Creo または Muto を対象に、それぞれ無料取得します。
 火炎で知られるフランボー派の選択肢に Perdo が含まれているのは、(あまり知られていないことですが)この流派が伝統的に火炎と破壊の二つの系譜に分かれるためです。前者はもちろん祖師フランボー本人、後者は彼の弟子であるアプロモールに由来します。p.34のダリウス(Darius)にみられるように、Ignem を使わないフランボー派も結構いるのね。また、この両方を修めるなら、暗闇や冷気を得意とするマギになります。BoAF の代わりに PeIg30“魔術師の凍える握り/Wizard's Icy Grip”を使う感じ。
 天稟持ちのメルケーレ派の Muto もやはり、変化魔術の達人であった祖師メルケーレに由来するものです。彼は魔術団の設立後まもなく実験に失敗して、すべての魔術能力を失ってしまいました。ボニサグスは長年に渡ってその回復を模索しましたが、とうとう果たせずに終わります。しかしメルケーレはそれに挫けることなく、新たな生き方として魔術団のメッセンジャー役を始めました。これが赤帽士の起こりです。
 この辺り、詳しくはサプリの"Houses of Hermes"をご覧あれ。

《静かな魔法/Quiet Magic》

内容:

 詠唱の声を小さくした際のペナルティが緩和されます。二回とれば完全に解消。

第四版からの変化:

 コストが+2から+1へ値下げ。重ね取り時は四版の《沈黙の魔法/Silent Magic》(+5)に相当します。

コメント:

 詠唱を略すのには、大ざっぱに言って二通りのケースがあります。
 まず一つには、他人にそれと悟らせずに魔法をかけるとき。これは特に俗世において頻発します。イェルビトン派や陰謀好きなトレメーレ派あたり、持っていると便利でしょう。
 もう一つは、何らかの理由で詠唱ができないとき。PeImなどで発声を封じられた状況を想定して(あるいはそうした状況を作戦の一部に取り込んで)、フランボー派やテュータルス派などの武闘派がとることになります。さるぐつわをはめられても大丈夫ですから、俗世に出て行くときの保険にもなるかもしれません。
 また、変身して人間の姿でなくなると詠唱もできませんから、ビョルネール派にも御用達。ただ、《心獣/Heartbeast》の項にも書きましたが、MuAn(Co)25“ビョルネールの声/Voice for Bjornaer”や、専門家タイプのマギなら《巧みな形相/Deft form》一発で済ませられる可能性もあります。そちらもご一考を。

 なお、「声(voice)」の射程には、常に配慮しておく必要があります。この美点は行使判定のペナルティを減らしてくれるだけで、呪文の到達距離は依然として実際の声量に依存しますから。呪文を開発/修得する際には、なるべく別の射程を選ぶ方がよいでしょう。

#ビョルネール派マギで、《心獣》が鳴かない動物な方は、潔く諦めましょう(^^;)

《副作用/Side Effect》

内容:

 呪文を使ったときに、有益な副作用が伴います。

第四版からの変化:

 コストが+2から+1相当に下がった他は、まったく変化なし。

コメント:

 あんまり取っているキャラを見かけないので、どんな使い勝手だかよく分かりません。p.26の審問士派のサンプルキャラが、「呪文行使後しばらくは周囲で嘘がつきにくくなる」という内容で持っているのですが…。

 一つのアプローチとして、実質的な効力をもった魔術師の徴(wizard's sigil, p.86)、といった感じの位置づけが考えられます。魔術が通常のマギよりもはっきりと個人に結びついて、正統から外れていることになりますから、《不可解な知識/Incomprehensible》と合わせて逸脱を表現したり、《神秘の血脈/Mythic Blood》と合わせて出自を強調したり、といった辺りを検討するとよいでしょう。

 また、アルスマギカ日本サイトにCzanさんが投稿してらっしゃったように、「マギの修業をする過程で失ってしまった超常能力の残滓」という語り方があるかと思います。もちろん、優れた師匠のおかげで超常能力を維持できたことにして、そちらと結びつけた内容にしてもOK。

 あと考えられそうなのは、過去に経験した黄昏(twilight)の結果ですかね。これはその黄昏のエピソードや、キャラクターの性質から内容を引き出せばよいでしょう。

《有能な師匠/Skilled Parens》

内容:

 師匠が強力な魔術師であり、また教え上手でもありました。初期経験値と初期呪文が増量。

第四版からの変化:

 一応は新規参入組ですが、実質的には《追加の術法/Extra Arts》と《追加の呪文/Extra Spells》の後継となります。(+1×6)+(+1×3)=+9 かかっていたコストが、+1相当で取れるという大バーゲン。さらに力ある魔術師とのコネまでおまけでついてきます。

コメント:

 比較すべきは《読書家/Book Learner》《自由な研究/Free Study》といった成長促進型の美点。これらはおおむね、1季節あたり経験値を3点余分に得られる勘定ですから、《有能な師匠》で得られる一時金と同じところまで行くには、環境に恵まれても20季節(+呪文分)かかります。サガの長さやマギの年齢によりますが、まずもって良い勝負といえるんではないでしょうか。

 せっかくこの美点をとるからには、師匠とその周辺もしっかり設定してやると、サガ全体を活気づけてくれると思います。なんといっても師弟の絆はおいしいネタですから。プレイ中にも折に触れて、修業時代の思い出をでっち上げると面白いかも。

《得意な状況/Special Circumstances》

内容:

 特定の状況下では、呪文行使および魔法抵抗の判定にボーナス。

第四版からの変化:

 重ね取りが可能になりました(ボーナス量は変わらずに、適用される状況の種類が増える)。それ以外はまったく変化なし。

コメント:

 ボーナスを得られる状況が何かは、魔術的な個性に合わせて設定するのが定石です。p.26にあるメルケーレ派のサンプルキャラが好例(天候まわりのCrAuを得意とするマギで、「嵐の中」という状況を設定しています)。ビョルネール派で「心獣の姿をとっている時」ってのもポピュラーでしょう。
 あんまりインパクトのあるボーナスではないのでメインにはなりえませんが、個性を補強する手段として地味に優秀な名脇役。取っておけばプレイヤーも自然とそうした状況を起こしたくなりますし。ある意味、そのキャラクターが呪文を唱えて一番絵になるシチュエーション、とでも考えると良いのかもしれません。

 また、少し拡大解釈して、旧約聖書のサムソンのごとく「髪を伸ばしていれば」などというのもアリかと思います。もっともこれは、欠点《状況の制限/Restriction》などで表現した方が綺麗かもしれませんが。

《実物の研究/Study Bonus》

内容:

 読書またはウィース研究によって術法を成長させる際に、対応する存在(例:Ignemなら火)があると、得られる経験値が増加します。

第四版からの変化:

 WGRE出典で、内容はまったく変化ありません。コストは+2から+1相当へ微減。唯一の大きな変化は、術法の値がいくつならどのくらいの規模の実物が必要なのか、その基準が具体的に例示されたことです。こういうプレイアビリティの向上は歓迎。

コメント:

 成長するほど大規模な事象に当たる必要がありますから、おそらくはそうした実物を体験するために遠方まで旅をすることになり、そうした意味で、フィールドワークの好きなマギが似合うでしょうね。逆に、研究室に引きこもるタイプには不向きです。

 また、この美点は、一緒に取る美点欠点によって、微妙にニュアンスが変わってくると思います。たとえば、逆位置である欠点《学習条件/Study Requirement》とセットで取るのはポピュラーですが、その場合には、実物の観察に優れるというよりは、文字や試料だけでは概念を十分にイメージできない、という印象になります。欠点《勉強が苦手/Poor Student》と組み合わせるなら、本より身体で覚えるタイプでしょうね。

 なお、四版時の文章をほとんどそのまま流用しているために、「学習値にボーナス」ではなく「ダイスロールまたは品質にボーナス」という形になっています。この辺の言葉尻をとらえると、《読書家/Book Learner》などとスタックできることになってしまいますが、バランス的にそれはいかがなものかと。五版はただでさえ、得られる経験値を減らしたルール構成になっているわけですし。

《目につきにくい魔法/Subtle Magic》

内容:

 呪文行使の際、身振りをしなくともペナルティを受けません。

第四版からの変化:

 これもコスト+2から+1へ微減した他は変化なし。ただ、最後の文章の言い回しが直されて、大きな身振りをした際のボーナスはちゃんと得られることが明示されています。

コメント:

 「声(voice)」の射程が絡んだ《静かな魔法/Quiet Magic》と違って、身振りは遠慮なくゼロにすることができます。ただ、同程度略したときのペナルティを比べると、身振りは詠唱の半分でしかありません。また、声を出せない状況と身振りができない状況とどちらが多いものか…。その辺は各人各様でしょうから、キャラクターの活動環境や、シナリオ内で起こりそうなシチュエーションをにらんで選ぶよりないですね。

 なお、これは《静かな魔法/Quiet Magic》にも言えることですが、身振りや詠唱を略したいのが、ごく少数の定式呪文にかぎられるようであれば、それらの呪文を習熟(mastery)するという手もあります。もっとも、習熟のレベルを上げるほど必要な経験点も多くなるので、他に速唱や複数投射などオプションをいくつもつけたい呪文には向きませんが…。

《ウェルディーティウス魔法/Verditius Magic》

内容:

 魔術工芸の奥義。ウェルディーティウス派専用です。
 世俗の職人には不可能な細工ができるのはもちろん、呪付の研究値に〈製作〉を、形状/材質ボーナス(Shape and Material Bonus)に〈哲学〉を、それぞれ上乗せし、さらに、呪付を開く(open)際に消費するウィースが〈製作〉のぶん減少します。

 一方で呪文は少し苦手で、作っておいた投射具(casting tool)がないと、定式呪文を唱えられません。即興呪文は普通に行使できます。

第四版からの変化:

 根本的な書き直しがなされています。実質的に「呪付全般を対象とする《魔法との親和》」だった四版時に比べ、材料や〈製作〉技術などの制約が入り、さらにコストも−1から+1に上昇とあって、ゲーム的にはやや弱体化。しかし工芸の要素を自然に取り込めるようになり、より「ウェルディーティウスらしく」なりました。これは望ましい変化といえるでしょう。
 新しい内容はむしろ、WGRE所収の+2美点《魔法鍛冶/mage-smith》の転生版と言うべきかも。単なる〈製作〉の上乗せから、豪華なおまけがついてパワーアップ。

 また、五版ではこの美点のうち形態/効果ボーナスの上昇を、ウェルディーティウスのルーンとしています。ウェルディーティウスのルーンは四版では、対応する術法のルーンを刻むと研究値にボーナスという内容で、他流派にも広く公開されていましたから、こちらも完全な変化です。

 あと細かいことですが、使い魔の呪付には適用されないことが明記されました(p.105)。

コメント:

 〈製作〉は分野別に取得する能力ですので、呪付物の材料がキャラクターによって変わってくるでしょう(木細工だったり彫金だったり)。キャラ立てに大いに資する事柄ですから、何の職人にするかは大事な考えどころです。
 形状/素材ボーナスに〈哲学〉がつくという内容はむしろ、呪付の内容と無関係に自分の得意な材料を選んでも、形状/素材ボーナスを補填できる、という形で把握した方がよいでしょう。いずれにせよ〈魔術理論〉でキャップされるのですから、ウェルディーティウス派マギは、〈製作〉〈哲学〉〈魔術理論〉の三者を伸ばしていくことになるわけで、他のマギより経験値が多めに必要かもしれません。
 なお、こうしてウェルディーティウス派が準備した素体は、他流派のマギが呪付する際にも変わらずボーナスを与えてくれます。ですから高レベルの効果を呪付する際には、ウェルディーティウス派が下準備して、実際の呪付はその術法の権威にまわす、という共同作業も可能です。

 簡易呪付(lesser enchantment)や充填品(charged item)は呪付を開く必要がありませんから、ウィースコストの減少が機能するのは、正規の呪付とタリスマンのみとなります。これら大規模な呪付は、ウェルディーティウス派と、それ以外のマギでは、位置づけがかなり異なってくるように思います。
 通常のマギなら、呪付は希少なウィースをたくさん取られる上、簡易呪付や充填品で済めばその方が時間的にも効率がいいし、簡易呪付などでできない規模なら定式呪文に頼るでしょう。ですから、正規の呪付をしようという機会はあまりありません。
 逆にウェルディーティウス派の場合は、呪付のウィースは少しで済みますし、研究値や実際の行使でも、定式呪文より呪付で行う方がはるかに有利です。呪付を開くのは品物一つにつき一度でいいですから、強力な効果を複数込めた呪付物をいくつか持ち歩くのは、ウェルディーティウス派にはわりとよくあるスタイルではないでしょうか。

 定式呪文の制限は、呪付物と同じく、投射具をどんなスタイルにするかで楽しむべきかと。今まで一番面白かったのは、四版の Houses of Hemes に載っていたマラキスですね。彼女の品物はみんな、使い魔のマウスが修理や診断をする(という名目で遊ぶ^^;)ように、やたらと大きくごちゃごちゃしているんです。これも一種の魔術師の徴(wizard's sigil)みたいなもの。
 余談ですが、祖師ウェルディーティウスは生涯を通じて、呪文を一つも唱えることができませんでした。しかし魔術工芸で並ぶものはなく、ヘルメス魔法の呪付の部分は、彼の技に多くを依っています。というか、ボニサグスにはウェルディーティウスの工芸が完全には理解できず、基礎の部分しか魔術理論に組み込めなかったのです。抜け落ちた部分がこの《ウェルディーティウス魔法》というわけ。

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