「ヘルメス」分類の美点(大)
《ディエドネー魔法/Diedne Magic》
内容:
今はなき魔術団13番目の流派・ディエドネー派。その系譜に連なる者となる美点です。ディエドネー派はドルイド僧の末裔であり、即興魔法の技を魔術団にもたらしました。ですからこの流派の者にとって即興魔法はいわばお家芸で、他のマギの定式呪文に近い水準を、即興で叩き出すことができます。
一方でディエドネー派は、分裂大戦(11世紀に起きた魔術団の内紛)の折りにスケープゴートに仕立て上げられて流派全体が破門され、審問士派・トレメーレ派・フランボー派・テュータルス派らによって抹殺された過去をもっています。現在でも魔術団の公式殲滅対象であり、逆にディエドネー派の方からも(生き残りがいたとしてですが)魔術団を不倶戴天の仇敵と見なしています。
露見すれば問答無用で処刑されてしまいますから、ディエドネーゆかりの者であることは、絶対に伏せておかねばなりません。これによって欠点《暗い秘密/Dark
Secret》がもれなくついてきます(無料・押し売り)。
第四版からの変化:
ボッチ防止や低い方の術法倍づけというオプションが加わった上、習熟するまで定式魔法が使えないという制約まで消え去りました。一部の術法へのボーナスこそ失ったものの、総合的には圧倒的な強化といえます。もっとも、四版(WGRE)ではコストが+1でしたし、大(つまり+3相当)に値上がりしたことを考えれば、妥当なところでしょうか。
コメント:
定式呪文を比較的軽視し、即興呪文で多くをまかなうキャラになります。あらゆる状況に対応できる柔軟性が持ち味ですね。いわゆる「低い方を倍」系の美点ですから、術法修得は一点集中よりも広く浅くが有利。季節行動でももっぱら術法の上昇に勤しむように。
設定的には、雑集派やメリニータ派に潜伏するのが第一感。分裂大戦時にかくまわれて以下ずっと密かに伝承してきたとか、俗魔術師を装って雑集派に参入してスパイとか。あるいは大胆にも天稟持ちの後継者を、徒弟として諸流派に埋伏してきたのかもしれません(敵の技を盗んだり、いざ決起のときのために…)。
いずれにせよ、キャラクターどころか、サガの方向性まで決めかねない美点です。トループ全体で額を集めてじっくり考えてみましょう。他のキャラたちにも、ディエドネー派やその企みに何らかの利害や因縁つけるとグッドかも。
《元素魔法/Elemental Magic》
内容:
地水風火の四大元素(すなわちTerram,
Aquam, Auram, Ignemの四形相)が得意です。とはいっても、それらに直接のボーナスがつくわけではなく、どれか一つを伸ばしたときに他の三つにもおこぼれの経験値が入るという成長促進型の美点。また、この四形相のあいだでは融通がきくようになり、制約術法(requisite)のペナルティが緩和されます。
第四版からの変化:
四版では+5という最大級の美点でしたが、五版は大小二段階しかないので、+3相当にお安くなっています。しかしその弱体化は値引き以上。四つの形相の数値を一つの能力で直接上乗せするという反則級のボーナスが消滅し、色気の大半が失せました。Vimのペナルティこそ外されていますが、それがいかばかりのものか…。
コメント:
俗魔術師と紙一重だった四版時代とは違い、正統的なマギでも違和感なく取れるようになりました。むしろ幅広い知見をもった賢人肌に似合うかもしれません。
性能的には、《読書家/Book
Learner》や《自由研究/Free
Study》といった、取得経験値を増やす美点の叔父貴分といった感じでしょうか。マギになってから20年30年といったキャラクターでいくなら(あるいはそのくらいになるまでの長期のサガなら)、塵も積もれば山でそう悪くないパフォーマンスなんですが、しかしそれでも、どれか一つしかとれないヘルメスの大の美点にこれを持ってくるのは正直勇気がいります。
ただ、経験値増加系の美点はたいてい、学習値の上乗せといった形でボーナスがつきますので、《元素魔法/Elemental
Magic》の作用である「おまけ経験値」とは競合しません。そういう意味で、《素質/Affinity》などをまず取得した上で、もっと欲しいときにこれをスタックさせる、という方向が妥当だと思います。
もう一つの機能である制約術法の緩和は、有効に活用できる局面があまり浮かびません。いいアイディアがありましたら、木霊す声あたりでどうぞご一報を。
…とやっていましたら、Ars Ludorum
のサガで一つのアイディアを目にしました。Aquamをメインに伸ばしておき、MuAqなどで要求される
Auram(気体へ)・Terram(固体へ)・Ignem(熱い氷とか)といった制約術法を《元素魔法》で回避するというもの。また、元素の四形相については、ArM5
の p.79 囲み記事に詳しいです。
《無欠な魔法/Flawless Magic》
内容:
すべての定式呪文が修得と同時に、最低限の習熟を済ませた扱いになります。さらに、習熟を進める際の経験値が倍づけ。
第四版からの変化:
これも四版(WGRE)では+6という最大級の美点でしたから、大(すなわち+3相当)になったのは大幅値引きです。失ったものは何も無く、それどころか経験値倍づけのおまけがついて性能アップ。五版になって習熟呪文が格段に便利になったこともあり、大バーゲンといえるでしょう。(もっとも、四版時代はあまりにも使えず、誰も選ばない幸薄い美点だったので、あるいはこれでコスト相応なのかもしれませんが…)
コメント:
《ディエドネー魔法/Diedne
Magic》とは逆に、定式呪文のレパートリーを増やし続けること。それと平行して、これぞという主力魔法は習熟を進めて、どんどん性能を上げていきましょう(p.87)。
設定的には優等生や完璧主義なキャラクターに似合いそうな美点ですけれど、定式呪文という「武器」を研いでいく武闘派のマギが取ると猛威をふるいそうです。BoAFに速唱(fast casting)と複数投射(multiple
casting)つけて、+30ダメージの火球を弓より早く一斉発射とかしたらヤバイっしょ。他にも、PeCo20“疲れの祈祷”を一人に5〜6発同時に撃ちこんで、1ラウンドで意識不明に追い込むとか…。
《柔軟な定式魔法/Flexible Formulaic Magic》
内容:
定式呪文の射程・持続・対象のパラメータを、その場で一段階上下できます。
第四版からの変化:
新規参入組。第四版には無かったです。たしか。
コメント:
こいつはスゲェ。定式呪文の最大の弱点である、融通の利かなさを緩和してくれます。幅広いレパートリーあってこそなので、あちこちから呪文書漁って、定式呪文の数を増やすよう励みましょう。また、このボーナスを裏から読めば、求めるパラメータより一段階下で修得しても足りるということ。結果的に開発の難易度が下がります。魔術理論に秀でたインテリに似合いそう。
この美点、あれば確実に便利でしょうが、一応はMuViのメタ魔法でも実現できる事柄ですので、どうしてもこれでなければということはありません。幸運にもそちらを専門にしたマギが仲間にいるなら、別な美点をとった方がいいかも。
《穏和な天稟/Gentle Gift》
内容:
マギにつきものの、天稟による社交ペナルティを解消します。
第四版からの変化:
+1のお手頃価格だったのが+3相当に出世してしまいました。けれども、五版では天稟の度合いによる相手の対応が明文化され(p.76)、しかもまたその内容が結構強烈ですので、これでも十分お買い得だと思います。
コメント:
俗世に出て行きたいマギ(特にイェルビトン派)には大変便利、というか、無いとまっとうな人付き合いができません。これを持たないマギは馬に乗れず(いきなり蹴られる)、法外な高値で泊めてくれる宿を見つけるのすら一苦労。何か事件があればすぐに責任をなすりつけられてしまいます。
逆に言えば、これさえあればコンパニオンと対等に世渡りできるわけで、越後の縮緬問屋になりたい人はとっときましょう。御簾の奥からエージェントを差し向ける黒幕タイプとか、「一つや二つ怪談が広まる方が魔術師として箔がつく」なんぞと豪語するタイプなら、不要と言い切ってしまえるんでしょうが…。
なお、天稟の社交ペナルティは微弱な魔法扱いですので、パルマ・マギカなどの魔法抵抗で止まります(p.76,
106)。だからマギ同士や幻獣たちは平気なわけ。また深読みすると、天稟が穏やか=作用が弱いともとれますから、もしかすると、魔術的にあんまり強力でない方が「らしい」かもしれませんね。
《生命直結魔術/Life-Linked Spontaneous Magic》
内容:
即興呪文を唱える際に、力量の不足を生命力(具体的には疲労度や耐久度の消耗)で補って、求める強度を無理矢理叩き出すことができます。
第四版からの変化:
四版では不足分をいきなり耐久度から削られていましたが、五版では疲労度も補填に充てられるようになりました。通常の人間なら疲労度は6段階ありますから、上乗せ幅がざっと30レベル分増えたわけで、かなりの強化といえます。にもかかわらずコストは据え置き。美味しい。
ただし、総合環境でみると少なからぬ逆風も…。この美点、第四版ではCrCoの秘薬(potion)で耐久度を回復しながら使うのが定石でした。四版では少ないウィース投資で治癒の秘薬を大量に作り出せたからです。しかし五版ではCrCoによる即時治癒がすべて儀式扱いになり、また秘薬のルールも削られたため、この手のコンボが封じられてしまいました。
また、四版ではこれと《ディエドネー魔法/Diedne
Magic》を併せ持つ即興特化型のマギもそれなりにいたのではないかと思われますが、どちらもヘルメスの大の美点に入ってしまったため、片方しかとれなくなりました。地味に損失。
コメント:
ここぞという局面で一発ぶちかませば、それで死んでもあなたはヒーローです。狙うしかないでしょう(笑) 血を吐きながら渾身の呪文を編み上げるシーンは、ストーリー的にも美しいです。世界とつながる健やかな仙人タイプでも、夭折の天才の沖田総司タイプでも、どっちにしても格好よくて、迷いますね。
サイズ0の標準的な人間の場合、この美点でもって実力より50レベル上の呪文にすると、ぎりぎり瀕死で生き残れます。「不足分は耐久度にはダメージとして来る」→「死んでいいならどんな高レベルの魔法でもかけられる!?」と一瞬思いましたが、儀式呪文以外(定式呪文と即興呪文)はレベルが50を超えられません(p.114)。世の中そんなに甘くない^^; もっとも、突破力には制限がないので、相手がどんな強力な魔法抵抗をもっていても、この美点があれば命を代償に一度だけ抜くことができます! (メガンテ!)
《魔術の専門分野(広)/Major Magical Focus》
内容:
専門分野をもち、そのテーマに関わる魔法や研究室活動に大きなボーナスがつきます。これもいわゆる「低い方を倍」系の美点。
第四版からの変化:
四版でポピュラーだった《魔術との親和/Affinity
with Magic》の実質的な後継機種がこれですね。+1〜+4という可変コストでしたが、専門分野の広さを当てはめると、+2のものが該当するでしょうか。ですので微妙に値上がりではあるのですが、ボーナスの量は目に見えてアップしています。経験値も入れなくて良くなりましたし。
コメント:
性能面で優れているだけでなく、キャラ立ちにも大きく貢献する優秀な美点です。「○○にかけては誰にも負けない」というスペシャリストは、定番ながら魅力的ですからね。《素質/Affinity》や、(両立が認められるかグレーですが)《強化/Puissant》との重ね取りも検討する価値があります。
なおトレメーレ派のマギは、これの小のバージョンとして《魔術の専門分野(ケルターメン)》を自動取得します(させられます)。ところが専門分野は一つしかとれない(たとえ広狭の違いがあっても)ので、結果的に、トレメーレ派はケルターメン以外の専攻をもつことはできません。皮肉といえば皮肉。
《メルクリウス魔法/Mercurian Magic》
内容:
ギリシャのヘルメス神は、ローマ帝国に受容されてメルクリウス神となり、その神殿は決して表舞台に出たり主流になったりはしないものの、隠然たる力をもっていました。キリスト教の国教化〜ローマ没落にともなって、メルクリウス神殿も消滅しましたが、司祭たちは隠遁して秘儀を伝えました。魔術団を創設した12人の祖師のうち、ビョルネールとディエドネーをのぞいた10人までがこうした司祭の末裔であり、魔術団はいわばメルクリウス神殿の転生した姿ともいえるのです。
メルクリウス神殿は多人数による大がかりな儀式を最大の特徴としていました。これは諸刃の剣であり、強大な魔法を発動させられる反面、行うには長い時間と準備が必要となります(帝国の後ろ盾を失ったことで、彼らが衰退したのには、こうした背景もあったのです)。
この美点をもつキャラクターは、メルクリウス神殿の影響を色濃く残したマギとなり、儀式魔法を得意とします。他のマギと魔力を同調させて投射の目標値を下げる
MuVi“魔術師の交わり / Wizard's Communion”の自動修得・自動更新や詠唱ボーナス、儀式呪文の消費ウィース半減など。反面、あらゆる即興魔法に祭式詠唱のオプションをとることが義務づけられます。
第四版からの変化:
《ディエドネー魔法/Diedne
Magic》と同じくWGRE出典で、これまた同じく出世組。内容はほとんど完全な書き直しがなされています。四版では、即興魔法が強制疲労でなおかつ5で割られるというペナルティがキツすぎて、なかなか取る気になれませんでしたが、ついにそれが消えました。さらに消費ウィース半減。素晴らしい。
コメント:
儀式魔法特化という、やや特殊なマギになります。〈自由学科〉と〈哲学〉をお忘れなく。どちらかというと文明的で古風なキャラに似合います。ボニサグス、イェルビトンなど。審問士派がメルクリウス神殿の遺失呪文をひそかに発見したという噂もあります(四版のHoHより)。また意外にもウェルディーティウス派とも相性良さそう(急の発動が要求される状況は呪付物でこなし、呪付物ではできない儀式の分野を《メルクリウス魔法》で補うわけです)。
儀式魔法の強みは、レベルや持続や対象に上限がないこと。設定通り、小回りがきかないものの、絶大な切り札となる大型呪文を唱える役回りになるでしょう。というか、そうした呪文を開発する、ないしは見つけ出す、といった要素をサガに盛り込むと面白いかも。
また、“魔術師の交わり”による詠唱の目標値の低下は、高い突破力に直結します。これは通常の定式魔法にも適用されますから、強敵相手のときに、あるいは仲間のマギの支援に、とても役立つはずです。
一方で、消費ウィース半減に着目するなら、治癒の儀式を頻繁に用いる医術専攻のマギが取るのも良さげ。ただいずれにせよ、半減とはいえ普通のマギよりウィースを食うのは間違いないですから、コヴナントはウィース収入の多いところを選ぶ(というか他のPLを説得して、コヴナントのウィース源にたくさんポイントを割り振らせる)ように。また自助努力として、できれば《個人のウィース源/Personal
Vis Source》の美点をとっておきましょう。
《神秘の血脈/Mythic Blood》
内容:
伝説の大魔術師やドラゴンなどの血を引くという美点。定式呪文では詠唱に失敗しないかぎり疲労しません。さらに、D&Dでいうところの疑似呪文能力を一つ持ち、《魔術の専門分野(狭)》と「性格」分類の小の欠点が一つずつ、おまけとしてついてきます(無料)。
第四版からの変化:
新規参入組です。ハリー・ポッターの影響でもあるんでしょうか。
コメント:
強力な美点だとは思うのですが、内容や設定が少々派手すぎて、個人的にはいまいちな印象です(怪しさ大爆発なジジイのイラストがそれに拍車をかけています^^;)。
誰の(何の)末裔なのかという部分が考えどころですね。舞台となる地方の伝説をひもとくと良さそうです(ストーンヘンジ管区ならアーサー王、テーベ管区ならギリシャ神話、ヒベルニア管区ならケルト系etc...)。あるいは人魚姫みたく、《妖精の血:ウンディーヌ》と一緒にとって、疑似呪文能力には水中呼吸を設定するとか。《真の信仰/True
Faith》と合わせて聖ゲオルギウス、なんつーこじつけもアリかな?
《洞察の付随/Secondary Insight》
内容:
研究にあたって視野が広く、学習した術法以外にもおこぼれの経験値が入ります。
第四版からの変化:
これもたしか新規参入組。
コメント:
ルールブック本文にもあるように、広く浅く修める万能型のマギ御用達でしょう。そういう意味では、《魔術の専門分野(広)/Major
Magical Focus》と対照的な位置にあります。張り合ったり嫉妬したりすると面白いかも。
単品のキャラとしては、豊かな素地をもった理論家タイプが似合いますかね。あるいは頭の柔らかい天才肌か。もらえる経験値の量は少なめです。長い目で見るよりありません。ウィザードリィのビショップを育てる感覚でどうぞ。(現場経験(exposure, p.163)でもおこぼれ発動なら強力だったんですけどねぇ。o
○)
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