「一般」分類の美点(大)

《死の予言/Death Prophecy》

内容:

 死ぬ状況のキーワードを予言されています。たとえば、「猪がお前の破滅の元だ」という予言なら、野生の猪に突き飛ばされて死ぬのかもしれず、猪の紋章の騎士に斬り殺されたり、あるいは猪亭という宿屋で死が待っているのかもしれません。

 予言が成就するまでは、負傷でも老衰でも絶対に死にません(ただし、死なないというだけで、行動制限などは通常どおり。治癒速度も同じです)。

第四版からの変化:

 WGRE出典で、内容はまったく変化ありません。コストは+2から+3相当へ微増。

コメント:

 物語を生み出す力を豊かにもっています。おそらくは利益が大きすぎるために欠点とはできず、やむなく一般美点に入っているだけで、実質的には「物語」分類に入るものとみて差し支えないでしょう。取得にはSGや他PLの同意が必要です。

 実例としてもっとも有名なのは、「バーナムの森が動かぬかぎり…」で有名なかのマクベスでしょう。「人間の男の手では…」というアングマールの魔王はその流れに属します。古くはホメロスの『イーリアス』にも、かかと以外では不死身なアキレウスがあり、神聖界なら福音書のシメオン! とまあ実に多士済々です。

余談ですがシメオンについては、バッハが素晴らしいカンタータを遺しています。救世主に会うまで死なぬというお告げを受けて永の年月待ち続けた老シメオンが、幼いイエスをみて預言がついに成就したのをさとり、平安に満たされて、もう思い残すことはないと歌う『われ満ちたれり』

 これらからも明白なように、誰がどのような予言をしたのか、その設定がこの美点のキモになります。さらに言うならば、こうした予言は成就するからこそ物語になるのです。時満ちて成就する図を最初から組み立てておくか、少なくとも、解釈にある程度の幅をもたせる(あるいはねじ曲げる余地を残す)ようにしましょう。
 あと、ついでですが、森を動かすなんて、マギなら朝飯前ですよね? ひそやかに世を見守り、さだめをもたらす魔術師ならば。

 また、コンボとして強力なのが、小の一般美点《不老/Unaging》との併用です。予言が成就しないかぎり、永遠に若いまま現世にのさばることができます。いわば『ブレイド・オブ・アルカナ』のフィニスみたいなもんですね。
 もっとも、これはむしろ「死ねない」(死なないのではなく)という方向で造型した方が綺麗かもしれません。さまよえるオランダ人とか、最近の映画だと『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか。さまよえるユダヤ人は同時代の13世紀に記録が残っていますしね〜。

《死霊の守護/Ghostly Warder》

内容:

 深い縁のあった死霊が見守ってくれています。見聞きしたことや知っていることを話してくれたり。

第四版からの変化:

 コストは+4から+3相当へ微減ながら、逆に、死霊に与えられる経験値が3倍に増加しました。また、13章の動物誌の中で、魔法界の弱いサンプルの席に、この美点の死霊が充てられました。テンプレート的にデータを提供してくれたのは、プレイ現場でなにかと役立ちそうです。

 ちなみに、逆位置にあたる欠点《死霊憑き/Haunted》は、五版移行とともに成仏した模様です(^^) 今後そちらは《超自然の憎悪/Plagued by Supernatural Entity》なり《超常の厄介者/Supernatural Nuisance》なりで表現することになるでしょう。

コメント:

 この美点の持ち主は、特段の手段がなくとも、守ってくれている死霊が見えます。それ以外の「他人」は、InMe魔法なり《霊視/Second Sight》なりがないと、死霊を見聞きできません。すなわち、回りの人間にしてみれば、中空にむかってぶつぶつ話しかけている電波な奴に思えるわけで…。この辺、『深淵』の「翼人のまじない師」にきわめて近しい。チャットのからくりでこれを表現した紙魚砂さんのアイディアは実にお見事。

 とはいえ、伝承ヨーロッパなら十二分にありそうなことではありますが、憑いていると信じて「もらえた」ら、それはそれで社会生活が破綻しますね。俗世をはなれて《追放者/Outcast》になったり、マギのところに身を寄せたりするよりないでしょう。
 一方で、この美点をもつのがマギならマギで、また違ったニュアンスになります。おそらくは魂魄を扱う魔術に長け、場合によっては守護霊の甦りを研究していたりもするかもしれません。雑集派の特典には、「ヘルメス分類でない大の美点一つ」が含まれ、とりうる幅が実のところとても狭いので、この《死霊の守護》は有力な選択肢となります(霊媒師の系譜になるわけね)。

 死霊は十分な能力をもつのに加え、実体をもたず不可視で、実力値もそこそこと、なかなかに有能です。誰がなぜ成仏を拒んでまで守護してくれるのか、そこはやはり考えどころですね。実際のプレイでは、死霊はほかのPLにやってもらうとよいでしょう。

《巨人の血脈/Giant Blood》

内容:

 上古に世界を闊歩した巨人族の末裔です。ご先祖様にははるかに及びませんが、それでも身長2m半に体重200kg余の堂々たる体躯。サイズおよび、【筋力】・【体力】(とその上限値)が上昇します。

第四版からの変化:

 なんといっても疲労度増加の消失が痛い。マギにとってのメリットが大部分失われました。

 四版時代のこの美点は、マギとそれ以外でコスト差がつけられていましたが、上記のような理由でメリットの差がほとんど無くなったので、コストも+3相当に統一されました。これは四版時代のコンパニオン/グロッグ時のコストと同じですから、コスト据え置きと考えて、【筋力】・【体力】の増強が加わったぶん、性能は上がったとみていいでしょう(疲労度増加が失われたことからは全力で目をそらしつつ)

コメント:

 サイズの増大は、いわばヒットポイントおよび装甲の増大と同義です。サイズ0の一般人は21ダメージで即死しますが、巨人の血を引くキャラなら、同じダメージを喰らっても「重傷」止まりで、「危篤」にすら至りません。優れたパワーファイターになれるでしょう。

 上限値上昇の効果を活かすなら、《卓越:筋力》および《卓越:体力》をそれぞれ2回ずつ取って、その上ではじめてこの美点をとりたいところです。しかしそれだけでコストの合計が+7に達してしまいます(さらに《豊かな特性値》の取得も考えねばならないケースも多い)から、隅々までしゃぶりつくそうとすると、あまり自由度がありません。もっとも、そうして出来上がったキャラはまさしく巨人の末裔であり、伝承ヨーロッパの物語としては王道ではありますが。

 あと小細工するなら、どんな巨人の血をひくのかですね。これもやはり、サガの舞台となる地域、そこの伝説を下敷きにして考えるのが定石でしょう。北欧のユミルもよし、ギリシャのアトラスもよし…。

《守護天使/Guardian Angel》

内容:

 主の御使いが(霊的にみて)正しい方針を教えてくれます。さらに美点の持ち主を守護して、吸収値と魔法抵抗を増強。ただし、助言に従わないと、正道に立ち帰るまで見捨てられる場合があります。

第四版からの変化:

 コストと大要に変化ありませんが、守護の内容が拡充されました。地獄の諸力の誘惑に耐えるときに脇にあって支えるというのが、吸収値と魔法抵抗の増加という実利的なものに差し替えられています。

コメント:

 R. A. マカヴォイの『魔法の歌』三部作「『ダミアーノ」「サーラ」「ラファエル」:邦訳は井辻朱美で早川書房から)につきます。埋もれし書物でも紹介しましたが、この小説の主人公は《守護天使》をもったウェルディーティウス派マギとしか思えません。すばらしい切れ味のファンタジーですので、ぜひご一読を。

 この天使と話すには本人が大声で叫ばないといけないという、《死霊の守護》と同様の電波問題があります。また、天使の与える魔法抵抗が〈パルマ・マギカ〉とスタックしないことにも注意。
 一方で、《真の信仰/True Faith》《聖遺物/Relic》の信仰値からくる魔法抵抗とは重複しますし、またそれらと並んで、〈パルマ・マギカ〉をもたない(つまりマギ以外の)キャラクターが自力で魔法抵抗を得られる数少ない手段の一つです。十字軍戦士なんかにぴったりかも。

《真の信仰/True Faith》

内容:

 山を動かすほどの篤い信仰をもっています(信仰値1点)。

第四版からの変化:

 これ自体はまったく変化ありません。ただ、信仰値のルールが若干変わりました。魔法を遮る恩恵が信仰値のみに依存の確率から魔法抵抗のルールに統一されたこと、サプリメント『神の平和/Pax Dei』に近づいて、クリスチャン以外のムスリムなどにも《真の信仰》がありうること、など。

コメント:

 もらえる信仰値が1点だけとは小さいようですが、1点すら持つに至る信仰はまれで、5点あれば聖人クラス(福者とされているマザー・テレサよりもさらに上といえば、その重みが分かるでしょうか。もっとも、カトリックの方に言わせると、崇拝するのはただ主のみであって、聖人はあくまでも「崇敬」の対象だそうですが。

 p.183にある異界の相互干渉表からも明らかなように、第五版の神聖界はわりと他の三界に優越する力をもっています。そういう意味で、神聖界由来の魔法抵抗は強い。どの界の版図に入っても弱まることがなく、逆に他界の諸力はみな神聖領では大幅に力を失うわけですから。

 比較対象は《守護天使/Guardian Angel》《聖遺物/Relic》でしょう。《守護天使》との比較では主として、[魔法抵抗5点+吸収値5点] vs. [毎日使える自信値1点] ということになります。《聖遺物》とは内蔵か外付けか、それとコストの大小ですね。どちらもなかなか良い勝負かと。

《地の利/Ways of the (Land)》

内容:

 一種類の地形(山・森・街など)に精通しています。その地形や住人に関係するすべての判定にボーナスがつき、ボッチダイスも緩和。また、住人からも一目置かれているため、滅多なことでは襲われません。複数回取ると、対象となる地形の種類が増えます。

第四版からの変化:

 コストが+4から+3相当へ微減。それ以外は変化ありません。街を対象にとったときの処理が明記されたくらい。

コメント:

 「すべての判定」というところがセールスポイントなのだとは思いますが、四版時代からどうも割高な印象がついてまわって、いまいち食指が動きません。とはいえ、森の狩人とか街の少年とか、王道はたくさんありますし、スペシャリストとしてキャラを立てやすい美点であるのも事実。コンパニオンやグロッグが普通ですが、マギでもたとえば「私は地上にいちゃいけない」と空を対象にしたりしていたら、ちょっと面白いと思いません?

《富裕/Wealthy》

内容:

 所属する身分の中では裕福なほうです。生計を立てるために必要な季節数が少なくて済み、成長などに充てられる自由時間が増えます。マギは取得不可。

第四版からの変化:

 裕福であるという設定は同じで、コストも変わっていませんが、ゲーム的な面は大変動。四版時代は(物価表がなくて使い道が分からない)大きな収入と、装備面の優位だけでしたが、五版になって、豊かさ貧しさによって年あたりの季節数が上下するという、血も涙もないルールが導入されたのです。そうした面からみればむしろ、消えた《学習が速い/Fast Learner》の隠れた後継と考えるのが正しいのかも。

コメント:

 あくまでも自分の身分の中で比較的裕福ということなので、実際の羽振りの良さは一緒にとる「地位」分類の美点/欠点によって変わります。《富裕》な《職人》よりも、普通の《封建貴族》の方が、食事も住居も使用人も豊かなわけで。つまり《富裕》の意味するところの多くは、少ない拘束時間で現在の暮らしを維持できることなわけです。それはそれで幸せなこと(金銭のルールをあえて排除しているアルス・マギカにあっては特に)。

 システム的には、生業とする能力の現場経験(exposure)しかできない季節の一部で、それ以外のものを選択できるようになる美点といえるでしょう。取るのが主としてコンパニオンであることを考えると、差分の期待値はおおむね2〜5くらい。学ぶことだけでなく教えることまで視野に入れたり、浮いた季節で危機に対処できる柔軟性を買ったりするなら、+3のコストぶんの働きは充分してくれると思います。

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