埋もれし書物
かれは呼んだ。もう一度ぽつねんとした丸太の上に腰を落としながら。
「ラファエル。熾天使。少し時間があったら……」
大天使は凍った水の上にふわりと優雅に座った。
「わたしには永遠の時間がある」
ここでは、アルス・マギカに役立つ本を紹介しています。
サプリメント
すべてアトラス・ゲームズ(Atlas
Games)刊。邦題は便宜上、私が勝手に当ててみただけです。
第四版
- Houses of Hermes (ヘルメス諸派:略称HoH)
まずはこれ。各派のくわしい情報がのっています。祖師の人となり、これまでの経緯や有名人、現在の筆頭や情勢、他派へのスタンスなどなど。これ一冊あるとないとで、マギのキャラクターの厚みがグンと違ってきます。
- Wizard's Grimoire (魔術師の秘本:略称WGRE)
魔術生活全般の追加ルール集。妖精魔法のルールはここに載っています。妖精魔法のないメリニータ派なんて、ク○ープのないコーヒーみたいなもんです。「お前さんは昼と夜がいっしょに来るまで目覚めないよ、ヒヒヒ」とか、「約束を破ったら呪いがふりかかるからね」とか、やってみたいと思いませんか。妖精界の使い魔もつくれます。
また、魔術理論の基礎研究のルールも魅力的。天才秀才が営々と努力を重ねれば、通常の魔法ルールを変えてしまうことができるのです。「これぞ十一番目の形相"Tempus"(=時間)だ!」とか言ってみたい夢のある方はぜひ。ええ、もちろん研究の難易度は大変なもんですが。
他にも種々の付則法やら書籍の拡張ルールやらで充実度120%です。オススメ。
- Pax Dei (神の平和)
神聖領域の追加ルール集。日時による神聖オーラの変動にはじまって、天使、聖人、天国まで。中でも重要なのは、神から授けられる聖職者の権能です。洗礼や結婚などの秘蹟はもちろん、祝福を授け、悪魔を祓い、魔法をはじき、etc...。特に神聖オーラの相(temper)の概念は強烈で、司牧する範囲のドミニオン自体を変質させて、苦しむ病人をいたわったり、邪な存在を斥けたりします。(さらに言うなら、こうした権能が《真の信仰》とは別扱いになっているのが、なんともカトリックらしい)。
また、敬虔マギ(pious magus)というルールも。信仰に目覚めたマギが自ら天稟を破壊し、神聖領域に属する者として生まれ変わります。彼らは神の意思に反する魔法が使えなくなりますが、ヘルメス魔法の限界から解放されます。たとえばウィースがなくとも魔法の効果を永続させられるのです。後戻りのきかない、アイデンティティーの根本をかけた厳しい試練なので、実際のゲームでは使いづらいかもしれませんが、個人的にはお気に入りのルール。
このサプリは、版元のサイトでは絶版の表示なので、中古市場を探すといいでしょう。私はアメリカのオンライン書店
Amazon.com の
Market Place(中古本仲介)コーナーを使って入手しました。いまも在庫があるみたい。
- Faeries (妖精たち)
妖精領域の追加ルール集。WGREに出ている分をのぞけば、妖精がらみのことはここに全部載っています。妖精の丘や騎行、取引などなど、伝承に優雅にフィットしたルールがたっぷり備えられていて、妖精もののシナリオやキャラクターを作るとき、これがあるとないとでは天と地の差です。(それと、冬の女王を描いた挟み込みのカラー絵がとっても美麗! 私なんぞはこれで一本シナリオできちゃいました)。
また、p.80〜83にオーラとレギオーについて(妖精界以外も含めて)充実したルールが載っています。複数の界のオーラ/レギオーの混在条件・界ごとの詳しい侵入方法や関連パラメタなど。個人的には、記述のまとまり具合、完成度では4th中ここが随一かと思います。
※妖精領域に関しては、これに加えて2003年暮れに、"Faerie
Stories"が発売されました。こちらはブルターニュ周辺を舞台に、個々の具体的な事例の紹介になっています。なにげにウィース狩りを季節行動として簡易処理するルールも入っていたり。
- Medieval Bestiary (中世動物誌)
伝承ヨーロッパにおける動物たちを扱ったサプリメント。きわめて実戦的で有用な本です。
まずはデータ的な価値。アルス・マギカではルール面からすでにPCが(ひいてはPLが)魔法の触媒や研究材料を欲するようにできていますので、それらを狩りにいくいわゆる「ウィース狩り」のシナリオは大変ポピュラーです。こいつが一冊あれば、その標的選びに事欠きません。もちろんビョルネール派の心獣や、マギの使い魔にも便利。
また、動物を使ったストーリーテリングの手法を示した第二章もためになります。メタファーをはじめとした味わい豊かな物語を織り上げるテクニックがいろいろ載っているのです。そもそもこの本に登場する動物たちは、伝承ヨーロッパの原則どおり、13世紀当時の博物学や伝承に基づいたものですから、その辺じつに楽しい。たとえば、蟹って音楽で釣れるんですぜ? 『フィシオログス』やプリニウスの『博物誌』など、現存する資料とともに読むと面白さ倍増。
- The Black Monks of
Glastonbury
(グラストンベリの黒修道士)
グラストンベリといえば、アリマタヤのヨセフが建立したとされるブリテン最古の修道院であり、アーサー王伝説とも絡んで有名ですが、その名刹がいまや悪魔崇拝に冒されつつあった…というソースブック。シナリオは付いておらず、細かい設定資料集といった趣です。
しかしこの本で重要なのはそれよりも、最後の章に載っている悪魔崇拝者(diabolist)のルールでしょう。ルールデザインや文章の端々から伝わってくるのですが、著者の
Chart
氏はいつになくノリノリで、「狭き門より入れ。滅びに通じる門は大きく、その道も広い」(マタイ伝7章13節)を見事に実現しています。誘惑に負けて手を出したら最後、もーばかばかしくって、まともに魔術の修業なんかしてられません。それに、取引するには悪事をせにゃならんのですが、自分自身で罪を重ねるのはそんなに価値がなくて、他人を堕落させるのでないと強い力はもらえないとか。そう、悪魔崇拝者は社会的動物だったのです! とにかく一番のインパクトはp.38の院長のデータ。さあ読んで驚け。
※関連して、グラストンベリとアヴァロンをレギオーで重ねた、マリオン・ジマー・ブラッドリーの小説『アヴァロンの霧』四部作(「異教の女王」「宗主の妃」「牡鹿王」「円卓の騎士」)も強くプッシュしておきます。ハヤカワ文庫。
第五版
- Houses of Hermes:True Lineage (ヘルメス諸派:師承学派 / 略称HoH:TL)
第五版では Houses of Hermes は三分冊で刊行され、充実した分量の記述になっています。自分のPCの属する流派の本は、ぜひとも買っておくのをお勧めします。
先陣を切るのは、ボニサグス/審問士/メルケーレ/トレメーレの四流派。これらは他派からの中途参入を基本的に認めず、全メンバーが師匠の師匠の師匠の〜と辿っていくと祖師まで系図を遡れるという、いわば純血主義をとっています。魔術団を支える重責と誇り、ある種のノブレス・オブリージュをみせる人々。
各々の流派によって、内容が全然違うのも微笑ましい(?)です。たとえばボニサグス派には、第四版でWGREに収められていた魔術理論の基礎研究ルールがあるかと思えば、審問士派の章はまるでヘルメス法典の細かな判例集といった趣。メルケーレ派には単に手紙を届けるだけでなく、ウィースや魔術物品の交易/質入れまで手広く商う赤帽士たちの活動があり、トレメーレ派はもちろん、派内の地位に応じた奉仕と援助が書かれています。
>tmiyaさんによるレビュー
- Houses of Hermes:Mystery Cults (ヘルメス諸派:秘儀教団 / 略称HoH:MC)
二冊目はビョルネール/クリーアモン/メリニータ/ウェルディーティウスの四流派。いずれも通常のヘルメス魔法から逸脱した特殊な術式をもち、秘儀参入の儀式を経ることがメンバーの条件です。基本ルールブックの段階では、最も基礎的な「外陣の秘」しか明らかにされていませんでしたが、このサプリメントには、より深くまた広範な秘儀が書かれています。
秘儀参入には、然るべき手順に則って代償を捧げ、それによって特殊な力を授けられる、というのが原則。いくつか挙げると、ビョルネール派には「大いなる獣/Great Beast」といって、心獣を超常の域にまで高めていく一連の秘儀があり、ウェルディーティウス派には呪付物の様々な強化に加えて、自動人形や呪いの品物の作り方があります。マンチ的な観点だけでなく、秘儀教団というどこかイっちゃってる連中の世界観を知る上でも大事な一冊。
>tmiyaさんによるレビュー。また、こういう不満が上がったこともありました。
- Houses of Hermes:Societates (ヘルメス諸派:同朋結社 / 略称HoH:S)
最後はフランボー/イェルビトン/テュータルス/雑集派の四流派。広く門戸を開き、他派からの参入を歓迎している流派です。自分のやりたいことをやってます、という満足感がそこはかとなく漂っております。
一番目につくのは、雑集派の待遇がようやくまともになったことかな。系譜を表現する無料取得美点/欠点を柔軟に選択したり作成したりする枠組みが用意され、しかも無料取得した超常美点にかぎっては、術法の開眼やその後の成長を妨げない扱いになりました。また、フランボー派の章は戦闘関連(透明時など)、イェルビトン派の章はIm/Me魔法や俗世のエージェント、テュータルス派の章は議論関係の、それぞれルール追補が充実していて、これらの派のPCをもたない人でも読む価値あり(もちろんそれぞれの流派のPC向けの記事もしっかりあります)。
>tmiyaさんによるレビュー:フランボー派・イェルビトン派
- Realms of Power: The Divine (異界の諸力:神聖界 / 略称RoP:D)
第五版ではサプリメントの体系化が進んでおり、異界についても統一したタイトルの下、一連の分冊として刊行されました。異界は魔法界・妖精界・神聖界・地獄界の四つがありますので、サプリメントも四分冊ということになります。ここでは刊行順にしたがって紹介していこうと思います。
一冊目の天国本(と私の周囲では呼んでいる^^;)では、まず基盤として、神聖界共通の超常能力ガイドラインや奇蹟、《真の信仰》《聖遺物》の扱いなどを定め、その上に宗教別のアドオンをつける、という形になっています。そう、キリスト教だけでなく、イスラム教やユダヤ教、果ては異端カタリ派なども神聖界の成員となったのです。
ルールシステムとしてみても、いろいろとご無体だった旧版の"Pax Dei"に比べ、全般に洗練されたものに作り替えられています。四分冊の中でもマンチ度は一番低く、地味といえば地味。でも守護聖人に懇願して力を振るってもらったり、七つの秘蹟で信仰値を得たりと、自然に雰囲気が出ますから、中世欧州らしいサガをやりたい方におすすめです。
- Realms of Power: The Infernal (異界の諸力:地獄界 / 略称RoP:I)
二冊目となるのは、全国のストーリーガイドのみなさんお待ちかねの地獄本です。今回の悪魔崇拝者は、罪を犯すと自信値を得ることができ、生贄と並んでこれが彼らの力の支えとなります。二つの超常能力を組み合わせて該当するガイドラインに照らし合わせる、という方式は神聖界の術師と同じ。ドーピングしまくっていたグラストンベリの黒修道士も、この新しいルールシステムで表現しなおされて、p.113に健在です。それにNPCで出すなら、マギのスロットを潰して作る「超常コンパニオン」のルールを気兼ねなく使えて、美点数の心配もいらなくなります(もちろんそれは神聖界もなんですが、地獄界の方がやはり出しやすい…)。
他に悪魔ご本尊はもとより、地獄オーラの発生(大罪を犯されると汚染判定)や、オーラ/レギオーのバリエーション、冒涜によってウィースを生成するルールなどが載っており、地獄界を敵役として出したいときに、さまざまなアイディアやサポートを与えてくれます。
- Realms of Power: Magic (異界の諸力:魔法界 / 略称RoP:M)
三冊目はマギたちを含めた魔法界。これは前二冊とはかなり毛色が違っていて、魔法界のキャラクターの作成ルールが大半のページを占めています。魔獣、巨人、死霊、湖や山に宿る精霊、そして目覚めた物品や樹木、果ては元素精霊まで。ウィース狩りの標的として、あるいはファンタジックな登場人物として、こうしたキャラクターをシナリオに織りこむ際、これまではストーリーガイドが一から自力で実装しなくてはなりませんでしたが、こうして作成ルールが整備されたことで、体感の労力が目に見えて減りました。
また、その陰に隠れて見逃しがちですが、魔法オーラの源や魔法国に関する章も、基本ルールブックに(わりと抽象的に)書かれていた内容を実践的に再定義しています。疲労度の消費で一定の魔法効果を発動できる超常美点、それと旧版では"Hedge Magic"に掲載されていたような、素で魔法効果をもつウィースのルールも重要。
- Realms of Power: Faerie (異界の諸力:妖精界 / 略称RoP:F)
最後の四冊目は妖精本です。妖精たちは物語と想像から生まれる存在で、それぞれの形で人間の活力を摂って生きています。人を怖がらせてその恐怖という感情を糧にしたり、台所に置かれたミルクから感謝の気持ちを得たりね。
ストックキャラクターとして物語の中で役柄を果たすのが彼ら妖精の本性であり、妖精郷はまさに物語の故郷。アルカディアでは未だ語られぬ物語を織りなし、エリュシウムでは既に語られし伝説や英雄譚を再現し、エウドキアでは過去の個人的な決断をもう一度悩みetc...。象徴度の高いセッションを楽しめそうです。
また、妖精の作成ルールや、妖精界と結んだキャラクターの追加ルールにもかなりのページを割いています。後から出たサプリだけあって、何かと実用的というか強そう。とにかく盛りだくさんな一冊で、やや散逸な印象すら受けますが、妖精もののキャラクターやシナリオを考えている方は是非。
- The Mysteries revised edition (秘儀 改訂版 / 略称TMRE)
マギはみなボニサグスの統一魔術理論の枠内で魔術を行使しますが、それは表向きの話で、理論に収まりきれない(あるいは理論に吸収されていない)技も存在します。それらは魔術団内にひそやかに続く各々の秘密結社に保存され、秘儀参入の儀礼を経た者にのみ伝授されます。
ルール的には、クエストを行ったり欠点をつけたりといった一定の儀礼を行うことで、特殊な美点を獲得するという形になっています。大いなる秘薬を調合して不老不死を目指す「錬金術」、夢の中を舞台に冒険できるようになる「夢魔法」、算術から幾何、魔法建築まで至る「数秘術」、その他「占星術」「召鬼」などなど。正規のヘルメス魔法の枠に満足できない方は、この本を手にとってみてください。
何らかの手段で魔法実力値持ちになった場合のルールも巻末についています。実力値持ちはもはや人間ではないので不老不死ですが、それは不変という本性から来るものであって、実力値獲得後の成長や記憶は、特別な儀式で固定化しないかぎりほどなく忘れてしまうとか。
- Hedge Magic revised edition (呪術 改訂版 / 略称HMRE)
ヘルメス魔術団に参入しない、土着の呪術師たちを取り上げたサプリメントです。元素術師、魔女、自然魔術師など。割と後になって出版されたサプリだけあって、意外と強力で馬鹿にできません。魔法抵抗こそ無いものの、魔法防御/Magic Defense といって、自分の術に応じた分野にはある程度の防御力すらもっています!
先発のルールを上手に取り込んだ綺麗なサプリというのが第一印象。個々人の呪術の個性化には一定制限下でヘルメスの美点欠点を再利用、技の伝授では TMRE の秘儀参入ルールに則り、呪術のヘルメス魔法への応用には HoH:TL の基礎研究ルールを流用し等々といった具合です。
個々の呪術の中身も個性的ですが、私はどれもまだ実際のプレイで使ったことがないので、使用感はいまいち分かりません。サガでの立ち位置としてもいろいろ使いようのある連中だけに、そのうち出してみたいところ。
- Covenants (コヴナント / 略称Cov)
マギの生活の中心をなすコヴナント関係の追加ルール/追加データ集です。コヴナントの美点欠点ともいえる特典と設定の増加はもちろん、忠誠度や資金といった経営シミュレーション的なルール、蔵書の価値や種類(写字生や装幀師などの技量で品質が上がったりも)、研究室のカスタマイズなども載っています。
実践的なものでは、コヴナントの住人のキャラクター集もあったり。あと細々したところを挙げていくと、蔵書の規模によって調べ物の判定にボーナスを得るとか、習得していなくても直接行使できる「呪文牌/Casting Tablet」とか、生活習慣で研究値にボーナス(毎日6時間残業で老化判定ペナルティのかわりに研究値+9!)とか。地味なようでいて意外な発見があるサプリです。
>tmiyaさんによるレビュー。詳細でオススメです。
資料
- ミシュラン・グリーンガイド
シリーズ (邦訳は実業之日本社から)
サガをすることになったら、舞台となる地方のを一冊仕入れましょう。いわゆる旅行ガイドですが、地図にはじまって気候や風俗、動植物から建築の特徴まで触れていますし、何より小さな街やマイナーな観光地まで(時には写真入りで)丁寧に解説しているところがマル。
私見ですが、少なくともアルス・マギカの資料として使うなら、他の旅行ガイドより数段優れています。しかしなかなか本屋に並んでいないのはなぜなのか……3000円前後という高めの値段設定がまずかったんですかね。図書館にときどき置いてあったりするので、見つからない方はそちらもチェックしてみてください。
なお、このシリーズの地方分けと、ヘルメス教団の管区分けは、当然ながら違うので注意しましょう。同名でも油断してはいけません(>混同した粗忽な私)。サプリメントの出ている管区ならもちろんサプリの方を優先ですが、こちらもあると何かと便利なはずです。
- 西洋建築入門 (森田慶一
著、東海大学出版会)
読んで字のごとく、建物についてです。古代から近代まで、各時代の様式やその変遷を解説しています。当時の建物の外観や間取りが載っていますから、いちいちマップを考えなくてよくなります。
ただ、いくつか欠点もあります。図はあくまでも文章の補助という位置づけなので必ずしも多くないということ(それでも見開きに一つは堅いですが)、いわゆる「建築」なので民衆の生活に根ざした家や小屋は無いこと、古代から現代までカバーするため、せいぜい半分の分量しか使えないこと、そして4000円という値段。たまたま古本屋に並んでいたのを買っただけなので、きっともっと適当な本があることでしょう。今のところ特段不自由していないので、能動的に探そうとまでは思いませんが…。
- 世界大百科事典 (平凡社:CD-ROM三枚組)
あえて断言しましょう。アルス・マギカ最大のサプリメントです。
たとえば歴史や生活。修道院の起源は? 理念とされたのは? そこでの暮らしは? どんな会派があるのか? 建物の構成や特徴は?
たとえば動植物。世界のどこにどんな亜種が分布しているのか? 生態の特徴は? 大きさや姿形は?(各項目に細密画つき)、人間との関わりは? そして文化や時代によってどのような伝説や表象を付託されてきたのか?
こうした詳細な記述がじつに35万項目。シナリオのネタが見つからない方が不思議ってもんです。時代考証に迷ったとき頼りになりますし、プレイヤーに見せる絵やハンドアウトの作成もバッチリ。しかも電子化されているので、書籍版なら本棚一つを占拠するところ、パソコン一台に収まって場所をとらず、引くのも桁違いに楽。これで¥18,000なら十分お買い得ですよ。
その他
- ダミアーノ (R.A.マカヴォイ
著、井辻朱美 訳、早川書房)
続編の『サーラ』『ラファエル』とともに、魔法の歌
三部作を構成します。
舞台は14世紀半ば。ルネサンスの光と黒死病の影が交錯する北イタリア。魔道士の血をひき、真摯なキリスト教徒でもある、純な青年が主人公。
読者の予測をことごとく外しておいて、読み終えて振り返れば「こうなるよりなかったんだ」とうならせる、破格のストーリー展開がすばらしい。皮肉で暖かい文体も洒落ています。
時代は百年あまり先ですが、マギが人とつきあう(相手が人でないこともありますが)際の立場は、おそらくこの作品に描かれているのとあまり変わらないことでしょう。いえ、マギたちはコヴナントや魔術団があるだけまだマシかもしれません。そんな中で自らの天稟と向き合ってせいいっぱい生き抜いたさまは、世界のさりげない描写とも相まって、きっとアルス・マギカのプレイにも参考になると思います
キーワード:社会におけるマギ、使い魔、天使の友人、悪魔との取引
- ヘルメ・ハイネの水晶の塔
(井辻朱美
著、講談社)
なぜか少女向け文庫に入っていますが、騙されてはいけません。これは一級の幻想文学です。まるで夢の中で編まれたような、それでいて(だからこそ?)不思議に精妙な文章は、世界の根源までゆるやかに読者を導いてくれます。
主人公は風の吹き寄せた葉っぱのちらしを見て、家政婦としてヘルメ・ハイネの塔にやってきます。お隣の薬屋に下宿し、街の人たちとも仲良くなって、おだやかな毎日が過ぎていくのですが、やがて……。
いろいろな意味で、魔法使いたるもの、かくあらねば。アルス・マギカは世界観にわりと現実的な一面があるので、注意していないとマギが俗塵にまみれて神秘の衣をなくしてしまいがちです(それも真っ当なスタイルではありますが、個人的にはどうも…)。そしてこれは、壮大なレギオーの物語でもあります。上巻をおおう秋の静かな空気にたっぷり身を浸してみてください。それを背負ってこそ下巻が活きます。
キーワード:魔法使い、北の国、レギオー
- クオ・ワディス (ヘンリク・シェンキェーヴィチ
著、木村彰一 訳、岩波書店)
表題はラテン語で「(主よ)いずこへ行きたもう」の意。このペテロのせりふにひきずられて、キリスト教プロパガンダ小説という先入観をもたれがちですが、それはまったくの誤解です。たしかに初代教会の人々とその殉教を感動的に描いてはいますが、それと同等以上の熱意をもって、ローマ帝国の爛熟した文化を讃えてもいます。これはすなわち、西洋文明の二大底流であるヘブライズムとヘレニズム、宗教と世俗を劇的に対置した傑作なのです。エンターテインメント性も豊富で、読者を飽きさせません。
とにかく格好いいのが、皇帝ネロの側近にして"趣味の審判者"ことペトロニウス。いわば秀吉における千利休です。美しい少女と玉杯を愛で、現世の快楽を十分に味わいつつ、自らを含めたこの世をシニカルに眺めるまなざし。審美と懶惰でもって海千山千の宮廷を泳ぎ、必要とあれば大胆にも巧妙にもなれるさま。そしてその最期。イェルビトンの一つの理想がここにあります。
キーワード:イェルビトン派、ドミニオン、ローマ
- オクシタニア (佐藤賢一 著、集英社)
主にフランスを舞台とした歴史小説を次々と発表している佐藤賢一の最新作。今回の題材はずばりカタリ派とアルビジョワ十字軍。十字軍勧講前夜の1208年にはじまって、異端最後の拠点モンセギュールが陥落した1244年に終わるこの時代設定は、1220年のアルス・マギカをすっぽりと覆っています。
例によって本の厚さをものともせずにぐいぐい読ませるのですが、もう一つすっきりしなくて、うーん、これは物語としては単なる娯楽小説止まりかな。でも、関西弁で表したオック語など、人物風俗の描き方は説得力があります。プロヴァンス管区を舞台にプレイする際に、背景情報を楽しく仕入れるにはおあつらえむきでしょう。
キーワード:正統と異端、プロヴァンス管区
- エリーのアトリエ 〜ザールブルグの錬金術士2〜
(ガスト)
プレイステーションのゲームソフトですが、強引にこのコーナーに入れてしまいました。
主人公のエリーは錬金術師の卵。複数のアイテムを調合して、新しいアイテムを生み出していくシステムです。ときには材料を求め、護衛を雇って出かけることも。ホラ、マギたちがやってることと大して変わらんでしょ?
無数に用意されたアイテムを自分の手で作り、図鑑を埋めていく過程は、本当にわくわくします。冒険や魔術物品のアイディアソースとしてマジで「使える」ので、攻略本だけ見てみるのも一法。世界の雰囲気はアルス・マギカよりだいぶ温かいのですが、その温かさも、優しさの垂れ流しではなく、相手のことを思って必要なときにはノーと言える芯の強さが底にあり、プレイヤーに元気を与えてくれます。
キーワード:ウェルディーティウス派、魔術物品
- 魔法使いとリリス (シャロン・シン
著、中野善夫 訳、早川書房)
原題は"the
shape-changer's wife"。変身術(というかMuto)の達人に弟子入りした若者の修業の日々、そして館の奇妙な住人たちの謎を描いた作品です。さすがに『ゲド戦記』には遠く及ばないものの、変成/変身の技をめぐる描写は、内面/外面ともにますまず(ときどき足を踏み外して「シナプス」とか「分子結合」とか交ざるのはご愛敬ですが)。
そしてまたこの作品は、(ネタバレになるので具体的には書けないのですが)、人の子に課せられた矩の存在を意識しています。どんなに強く憧れたとしても、またたとえ自分にそれができたとしても、星に手を伸ばして地上に留めてはならない。身を切るようにつらくとも、それが賢者の英断なのです。(なお、『ヘルメ・ハイネの水晶の塔』が好例ですが、それを分かっていても…というドラマもまたあります。いずれにせよ踏まえているかどうかが問題)。
キーワード:Muto、ビョルネール派、雑集派妖獣師
- 動物のお医者さん (佐々木倫子 著、白泉社)
「なんでこんなのが」とおっしゃるなかれ。教授と学生をマギと徒弟(またはマギとグロッグ)に置き換えてみてください。案外通ずるところがありませんか? たとえばこんなの。そもそもコヴナントって、関係者が集まって研究生活を送るというところからして、大学に似ているんです。
キーワード:コヴナント生活
- 央華封神RPG
グループSNEのTRPG。悪事をはたらく妖怪相手に仙人たちが大立ち回りをするゲームです。システムのねらいも実際のシナリオ/プレイもアルス・マギカとは全く異なるのですが、仙人たちの浮世離れした暮らしが良い出来で、ファンタジー色の強めなサガをやるときにはとても参考になります。(そういやこういうところ、わかつきめぐみの主様シリーズもいいですなぁ)。小説などの関連商品は読んでいませんので分かりませんけど、とりあえずルールブックは買う価値あり。
キーワード:マギの暮らしと交遊、魔術物品、修業生活
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