楽士の呟き

2005年秋

9/20

 被害者になった交通事故の賠償交渉をはじめ、この夏はまったく災難続きで、いまだその余波を引きずっています。今日までとてもじゃないですが更新どころではなかったですし、またアルスマギカ日本サイトでも興味深いトピックが上がっていましたのに、話に加われなかったのが残念です。

 それはさておき。

 ちょうど半年ばかり前に気づかされたのですが、私は生粋の楽士なだけに、知らず知らずのうちに、音楽のみで人を量るようになってしまいがちです。
 馬場さんのをはじめ、上達のための努力を強調するTRPG論は多いですが、同じ想像力の死角に入ってしまっているのではと、時に思うことがあります。1日は24時間しかなく、何にどのくらいリソースを割り振るかは人それぞれ。自分と同じ投資を相手にまで期待するべきではありませんし、「良い案配」で妥協するのは、それはそれで立派な見識ではないかと。

9/28

 音楽が大好きで、それでいて少しも無理なく one of them に留めていられる聡明なあなたへ。

 こう言うべきだろうか、「カルラ、愛するひとよ、ぼくは、あなたをたたえる音楽であなたの名を輝かしいものにするために、プロヴァンスへ行くのです。ぼくを待っていてくれますか」
 それともこうだろうか、「カルラ、最愛のひと。ぼくはニュールンベルクに行って、あなたのために錬金術の腕をみがき、あなたに栄光をもたらしたいのです。ぼくを待っていてくれますか」
 こうは言えないのは確かだ、「カルラ、かわいい子、おさななじみのカルラ、ぼくとプロヴァンスかドイツに来ていっしょにひもじいくらしをしましょう」

(マカヴォイ『ダミアーノ』より)

 駆け出しでまだ収入や貯金に乏しく、将来の保証もなく、一日のすべてを音楽の仕事に充てる毎日。自分一人なら別に苦になりませんが、しかし人を愛しても、捧げられるものは何一つありません。甲斐性が云々なんてアナクロなことではなくて、ただ単純に、足を引っ張って一緒に泥沼の中に引きずりこむような真似だけは、したくないんでねえ。兄弟子が一時かいま見せていた悲壮な顔つきが、このごろはよく理解できる気がしています。

 私が焦っているだと? 馬鹿な。私は冷静だっ!

10/6

 この秋は遠隔地でのコンサートが多く、特に11月は、月の三分の一を演奏旅行に出かけて過ごす予定です。楽器を積んで飛び回り、のべの走行距離は2,000kmになりましょうか。まるきり旅芸人で、こりゃ車の運転も上達しそうですね。

 宿の手配をするときには楽天トラベルを中心に当たってまして、金沢で兼六園近くの民宿が3,000円とか、神戸のポートタワー正面の立派なホテルを4,800円とか。 ちょっと調べるだけで数千円は違ってくるんですから、情報化社会は有り難いなあ。

10/15

 この秋のシーズンの一つでは、ソプラノのYさんを歌姫に据えて、悲劇の女王をテーマにしたヘンデルのカンタータ集をやるんですが、このYさん、最近は眼力(めぢから)が凄いです。素から気品のある方なだけに威力も倍増で、演奏中、表現のキーになるタイミングでアイコンタクトをとると、こちらが思わずギクッとするくらい。

 思えば最初に共演したオペラでは、彼女は冷厳な皇妃の役をやっていて、演出家からしきりに「手下に目で命令する演技をせよ」と言われていました。いやあ、その指導が実ったんだなぁ(^^;)

10/26

 カウンターが9,000を越えましたので(ありがたや)、一桁増やしました。これからもどうぞご贔屓にお願いします。

 そういえば、一ヶ月前に兄弟子の教えているチェンバロ教室の発表会があって、私も打ち上げだけ寄せてもらったのですが、その席で撮った写真を先日渡されて愕然。なんだかわたし、やけに煤けたオヤジ顔になって写ってます。いったいいつの間に…?

 まあ普段から気苦労が多いのは確かなんですが。元々がコネも箔も何もなく、創意工夫と腕一本で新たな市場を切り開こうとしているのですから。それに、くだんの兄弟子とは徒弟時代から苦楽を共にしてきた仲で、いまもその絆は変わりませんけど、しかし一方でこのごろは微妙にシェアを奪い合う商売敵になっている現実もあり。互いに、相手のやっていないことを、相手より先にやろうとするので、かなりハイペースな軍拡競争になっています。

 でもそれも定めといえば定め。他人から無茶といわれる行為を、綿密な計画と沈着な度胸で押し切るのが私の身上です。ここ数年で、ようやくそれを悟りました。

11/1

 関西のリコーダー吹きであるH嬢と開いた一昨日の演奏会は、我ながら会心の出来でした。

 彼女とはもう数年来、夏の講習会で顔を合わせては、互いの進境を認め合い、翌年の励みにしてきたつきあいで、まあ要するに『のだめカンタービレ』の千秋と清良みたいな間柄なわけです(^^;) 企画/制作から演奏までをトータルに行う人間として、おそらくは今年一番の果実となるでしょう。

11/7

 一昨日の演奏会のプログラムに、通奏低音付きのヴァイオリン・ソナタが入っていまして、弾く前に弦とチューニングしていて思ったんですよね。

まずヴァイオリンが、A線・D線・G線・e線の順に合わせます。
でもって次にチェロが、A線・D線・G線・C線。

 ヴァイオリンしか持たないe線、逆にヴィオラやチェロだけのC線。これってD16さんの言っておられる、クラシックD&Dファイターのd8と同じかも。

 さあ、明日からはまた別口。五泊六日で関西方面へ演奏旅行です。いつものように《慎重な魔術師》でもって手配しました。あとは北陸縦断の遠距離ドライブで事故らないかどうかだけがポイント。無事帰ってきてみなさんに再びお目にかかれますように。

11/14

 日程のすべてを成功裏に終えて、神戸より帰還しました。
 空き時間をみては、大阪ではお好み焼きやたこ焼きをたらふく食べ、金沢では晩秋の宵の口に静かな路地裏を歩いて、和の風情を味わいました。高速道路を走っていても、山並みの紅葉が美しい。明日でXX歳を迎える私ですが、自分が生まれた季節だからか、一年でこの時季が一番好きです(《正の周期魔術》)。

 今週末は逆に北上して、米沢へ向かいます。そちらの紅葉も楽しみ楽しみ。

11/28

 チェンバロ弾きは、アンサンブルの扇の要。良い捕手になれそうです。
 曲に対する理論的な分析力はもちろん、相方となる楽器の特性の把握(どの辺の音域が鳴りやすくどの辺が鳴りにくいとか、どんな音型が吹きやすく、どんなパッセージが苦手かとか。奏法の初歩も知っているのがベター)、指揮棒の代わりに気配を飛ばし、また相手の気配を受信する技、全体のサウンドに目配りし、必要に応じて即興でフォローするゆとり。

 こうした多くの特殊技術が要求されるだけに、それらを備えられずにソロ専門になってしまうチェンバロ弾きは多いですし、ソロの方が難しいという世間の誤解のせいで収入も多くなりますから、それはそれで一つの道だとは思うのですが、しかし私は師匠譲りでアンサンブルにこそ適した資質です。「彼と一緒にやると、実力以上の演奏ができる」。共演者にそう言ってもらえる存在になりたいと願っています。

#なんか改めて列挙してみると、チェンバロ弾きがアンサンブルでやってる役割って、TRPGのゲームマスターとあんまり変わりませんなぁ。o ○

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