第五版速報第五版のルールが、第四版からどのように進化しているか、ざっと目についた範囲で書き出してみます。速報と言いつつすでに発売から一ヶ月近くが経過していますが、Amazon.comから届いたのが一週間前でしかないのでどうかご勘弁を。 ここでは私が個人的に関心のある辺りしか挙げていませんが、八年ぶりの改版ですし、変更点は多岐にわたっています。詳しくは購入なさって、ご自分の目で確かめてみてください。こんな完成度の高いシステムが、全ページ二色刷のハードカバーでたった$25だなんて。絶対に買いです! ■呪文の構成と行使 まずはアルス・マギカのキモである魔術のルールから見ていきましょう。 最も大きな改良点は、術法ごとの基本の射程・持続・対象という概念が消失し、デフォルトのパラメータがすべての組み合わせで共通になったことです。これによってレベルの算出や内訳の記述が簡便になり、暗算でも楽勝になりました。 また、各パラメータの段階自体も減っており、特に目を引くのが、持続から「永続」「残存」が姿を消したことです。ウィースを使って魔法を永続化することができなくなったわけで、定期的にかけ直さなくとも済むのは、「一瞬」のパラメータで可能なものに限られました。
即座に傷口を塞ぐ治癒がこうして難しくなった一方で、自然治癒の速度を高めるというアプローチがガイドラインに登場しています。ウィースもいらず、今後はこの方法が主流になることと思われますが、長期的に魔法に被曝するため歪曲(後述)のおそれがあります。 儀式魔法の行使判定では、〈集中力〉ではなく〈自由学科〉と〈哲学〉を用いるようになりました。マギにも教養科目の受講が必要な時代の到来です(笑) また、疲労しない場合の即興魔法では、ダイスを振らなくなりました。もともと、マギが苦もなく小手先で日常的に行っている魔法を示していたわけですから、これは正しい姿といえましょう(個人的には、五版の一番の功績はこういった、各ルールの存在意義を再確認して寄り添っていった洗練だと思っています)。定式魔法および疲労時の即興魔法の判定は、四版と変わりません。 また、習熟呪文のルールは大きく増補され、より実用的になりました。各呪文ごとに能力を取得し、1ランクごとに好きなボーナスを一つ(速唱とか突破力とか)選んでカスタマイズできるようになっています。今後はメインの定式呪文に経験点を投下することが当たり前になるでしょう。 ■魔術の周辺衝撃的なのは、射程や持続をウィースで増幅できなくなったことです。行使判定の上乗せも+5から+2に半減しており、大量のウィースをぐっと握っていれば少々の無理が利いた四版に比べて、全体的にウィースの有効性は低下しました。修得していない呪文を書巻から直接詠唱できるルールが消えたことから見ても、五版ではマギ本人の技量に依存する度合いが高まったと考えられます。 魔法抵抗と突破力の概念が整理され、ヘルメス魔法のみならず、美点《魅惑の調べ》などの特殊能力や、幻獣らの力も、同一の判定で処理できるようになりました。 関連して、面白いのが「声」という射程。「接触」の一つ上、「視野」の一つ下にあたるのですが、マギの声が届くものという不定の距離になっています。詠唱の声を潜めたりすると短くなり、大声でどなれば長くなり。四版時代の魔術戦では、PeImで自身の知覚情報を徹底的に遮蔽するのがセオリー(先に相手を見つけた方が圧倒的に有利)でしたが、「伸腕」「近距離」といった手頃なパラメータが消えて代わりにこの「声」が入ったことは、あるいは新たな戦術の組み立てを生むかもしれません。 また、形相でもらえる防御ボーナスの適用範囲が明確化され、またボーナスの量が形相の値そのままから5分の1に減りました。そのため、フランボー派なんかに普通にみられた「Ignemが高いから暖炉に手をつっこんでも平気」という光景は希少になりそうです。ちょっと残念。 大量の魔力に接しているとそれが体内に蓄積され、ついには「終末の黄昏」に入って現世から消滅するという黄昏ルールの根幹は変わりませんが、五版ではそれをさらに拡張して、歪曲(warping)という概念に整理しています。
このほか、各術法の領分がより厳密に定義づけされたり、儀式呪文になる基準が基本ルールで明確に示されたりと、四版で曖昧だった部分が徹底的に潰してあります。なんともマメです。 ■研究室それほど大きな変動はありませんが、判定処理が整理されて、プレイアビリティは確実に上がっています。 目を引くのは研究書巻の扱い。従来の研究値ボーナスという形から、研究書巻があればどんなプロジェクトも必ず1季節で再現できるという、明快なルールに変わりました。たとえば、呪文書からの修得も、「研究書巻に従った呪文の開発」として処理してしまうことができます。 それと、秘薬のルールは概念をより広げて、充填品(charged
item)と呼ばれるようになりました。いわゆるポーションだけでなく、一定のチャージ数をもたせた使い捨ての魔術物品として自由に構成できるようになったのです。ただし、ウィースで研究値を直接上乗せすることができなくなりましたので、四版時代のように高レベルを無理矢理叩き出すマンチができず、その点は大きな弱体化です(まぁこれが正しいバランスとは思いますが)。 なお、ウィースの使用上限は〈魔術理論〉のみに依存するようになりました。Vimの値を上げても無駄、というか逆に、〈魔術理論〉さえ上げれば必ずしもVimの値はいらない、と考える方が当たっているかも。 ■キャラクター 魔術団の十二流派は相変わらずですが、大まかに三区分に分けられました。 美点と欠点は、数字による評価を廃止して、大小の二種類のみになりました。大が3点相当、小が1点相当の扱いです。サプリに掲載されていたものも入ったりしていて、数えていませんが、数自体は増えているかな? その一方で、「一般」「魔術団」「社会階級」「個性」「物語」と分野分けして整理したことで、キャラに合わせて選ぶのは確実に楽になりました。 特性値のバランスは変わりません。ただ今回は、CrCoやCrMeの魔法によって、特性値を永続的に上昇させることができるようになりましたので、《卓越》など特性値増強系の美点は相対的に価値が下がったものと思われます。一方で、老化が特性値を直接低下させるようになったりして、四版ではほとんど不動だった特性値の値が変わるケースが増えました。 また、キャラ作成のルールが拡張され、任意の年数を過ごしたキャラクターを作れるようになりました。四版では徒弟年季を終えたばかりの新米マギしか作れませんでしたが、五版では夏や秋のコヴナントを舞台にしたサガも簡単に行えます。 ■成長と老化5倍換算だった能力と術法の経験点スケールが統一されました。これにより、成長の処理がシームレスに行えます。これは今回最大の改良点の一つに挙げられると思います。キャラ作成にも好影響を及ぼしており、術法と能力の割り振りが自由になりました。 読書や訓練などの成長の処理も、ソースの品質のみに依存した式に統一され、扱いやすくなりました。各方法の間のバランスは四版とあまり変わっていない模様。ただ、写本については、背景知識と〈製作(著述)〉を兼ね備えた人材が丁寧に行わないと劣化したりするようになったため、ゲーム的なコストが多少上昇したと思われます。専門の書字生のグロッグを育成するか、マギが自分でやるかですが…。 あと、五版では「富は力なり」です。要するに、金持ちだと自由時間が増えて、成長に充てられる季節数が増えるんです。逆に貧乏人は、年に1季節分しか成長できなかったり。リアルっちゃあリアルですが、夢も希望もない話ですなぁ。CrTe20には金塊作成の儀式呪文が加わっています。 老化は、四版では老衰値が一定の値に達すると老衰死というルールでしたが、より洗練された形になりました。老化の影響が個々の疾患ではなく、特性値の低下で抽象的に表現されます。そこから間接的に老衰値が算出され、だんだん無理がきかなくなって、体調を崩して死にかけることになりました。度合いに応じた【体力】判定に成功するか、CrCo魔法の補助があれば生き延びられますが、そうでないと老衰死です。これには〈医学〉も関わっており、負傷者の看護のこともあって、〈医学〉は株を上げています。 ■その他 戦闘では、イニシアチブ値が単なる行動順になり、間合いの概念がなくなりました。槍を構えて剣を寄せ付けないとかできて好きなルールだったので、個人的には残念。 負傷の処理は、ダメージ5点につき耐久度1段階喪失というものから、受けたダメージの点数とサイズを表で照らし合わせて傷の度合いを判定し、個々の負傷を別々に記録する形になりました。そのため、たとえば軽傷を十回受けても、それが中傷以下に発展することはありません。ただ、負傷による行動ペナルティはどんどん累積していくので、それによって間接的に、重い傷を受けやすくなるということはあります。 自信点の再利用ができなくなり、使い捨てになりました。その代わり、シナリオの最後に数点の自信点を得られる形になっています。ここ一番でのボーナスが大きいとはいえ、基本的には四版より弱体化したと言っていいでしょう。高い自信点を使いまくるナポレオン系のキャラは死んで、火事場のクソ力系になりそうです。 天稟が引き起こす悪反応が、シチュエーション別にそれぞれ三段階に分けて、詳細に例示されました。コストが−1から大(−3相当)に出世した《露骨な天稟》の欠点なんぞ持っていては、どこへ行っても塩を撒かれるのがオチ^^; [戻る] |