「アルス・マギカ」紹介

 「アルス・マギカ」(Ars Magica)は、魔術をテーマにしたTRPGです。現行の第五版は米国のアトラス・ゲームズ社(Atlas Games)から出ており、2010年1月現在までに20冊以上のサプリメントが刊行されています。オリジンズアワード(アメリカの年間ゲーム大賞)では、2004年の最優秀RPG賞を獲得しました。残念ながら邦訳は出版されていませんが、だからといってプレイしないのは惜しい、大変面白いシステムです。

この文章では、アルス・マギカをご存じない方に向けて、その魅力をご紹介してみたいと思います。


■魔法を楽しむ

 アルス・マギカは魔術師を遊ぶゲームです。であるからには、ゲームの骨子には魔法ルールがあります。D&Dで戦闘を楽しむように、アルス・マギカでは魔法の作成を楽しむのです。

 アルス・マギカでは、予め用意された動詞と名詞を一つずつ組み合わせて魔法を作ります。
 例を挙げましょう。行く手の大河を渡りたい時には、たとえば次のような組み合わせが考えられます。
 「ワレ創ル」と「植物ヲ」を組み合わせて、即席の橋を架ける。
 「ワレ操ル」と「水ヲ」を組み合わせて、川の水を凍りつかせる。
 「ワレ変ズ」と「人体ヲ」を組み合わせて、魚や鳥に変身する。
などなど。他にも、川と話して流れを一時止めてもらったり、あるいは川を干上がらせたり。アイディア次第で可能性が広がります。

 これに射程/持続/対象という三つの要素を加えて、魔法を構築します。その際、魔法の難易度はマスターの裁量に依存する部分が少なく、ルールに基づいて計算することで自動的に導き出されるというのが肝です(戦闘を楽しむゲームなら、命中判定のルールが整備されているのと同じですね)。

 ところで、上記のように一つの目的に対していくつもの策が考えられるわけですが、手段によって難易度が異なってきます。たとえば、最終的な難易度をルールブックに基づいて計算すると、水を凍らせる方法なら15、川と話す方法なら25となるのが分かります。

 それに対して、キャラクターたちはそれぞれの動詞と名詞ごとに力量を表す数値を持っているものですから、簡単な方法が常にベストとは限りません。「ワレ識ル」を伸ばしたキャラクターなら、多少難易度が高くても会話の方が有利に判定できますし、「動物ヲ」の得意なキャラクターなら、動物を介した方法にこだわるでしょう(この場合であれば魚を巨大化させて運んでもらうとか…)。そうした兼ね合いの中で最善の魔法を考案するのが、アルス・マギカの一番の楽しみなのです。

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■世界を楽しむ

 アルス・マギカの舞台は、基本的には史実上の中世ヨーロッパです(公式セッティングは西暦1220年)。これにどんなメリットがあるかと言いますと、現実世界の資料がすべてサプリメントになるのです。そこらの検索エンジンにキーワードを入力すれば、有名NPCの設定が(下手をすると肖像画つきで)ひっかかりますし、google map あたりにアクセスすれば、好きな縮尺の地形図が手に入ります。人々の暮らしや宗教といった部分にしても、これほど厚みのある世界は他にありません。

 ただし、先ほど「基本的には」と書きましたように、アルス・マギカではここに若干の if を入れています。それは「もし当時の迷信や伝承が真実だったら」というもの。だから魔術師は呪文を唱え、悪魔は人々を誘惑し、聖人は奇蹟を起こし、妖精は悪戯をするのです。

 その上で、魔術師たちは共同で結んだ掟によって、俗世への直接干渉を禁じられています。そのためキャンペーンでは、魔術師でないサブキャラも手持ちにし、セッションごとに使い分けるスタイルが標準です。それはたとえば、竜退治の槍を授かる勇者であったり、ひそかに盟約を結んだ貴族であったり、呪いを解く手掛かりを求める少女であったりします。

 俗世を離れた魔術師もまた、必ずしも自由ではいられません。外部から持ち込まれる相談事/厄介事の数々に、師匠や弟子のしがらみ、希少な研究材料の入手、仲の悪い同業者等々といったものが重なり、通常のファンタジーRPGとは異なった立場や視点を遊ぶことができます。

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■人生を楽しむ

 ゲーム内の時間経過はかなり高速です。魔術書を読んで動詞や名詞の数値を上げたり、魔法の品物を作ったりといった研究作業は、季節単位で行います。キャンペーンの間には、10年以上のゲーム内時間が流れることも珍しくありません。老化(と魔法による寿命引き延ばし)のルールを、このゲームでは本気で使います。そして、季節単位の研究内容をシートに記録しファイルしていけば、それがキャラクターの人生を映し出すことになるでしょう。

 また、キャラクターたちの住処(塔とか工房とか洞窟とか)をコヴナントと呼び、蔵書や研究設備といったデータを設定するのですが、このコヴナントも、キャラクターたちの努力次第で少しずつ発展していきます。キャラクターの季節行動と合わせて、大げさに言えば、人生シミュレーション/経営シミュレーション的な楽しみがあるのです。

 なお、キャラクターもコヴナントも、データ面はかなり細かめです。キャラクターでいえば、美点と欠点(GURPSでいえば「有利な特徴/不利な特徴」に当たる)を中心に、イメージと性能を両立させたキャラクターを目指して組んでいくことになります。
 こうして細かなデータを差配するキャラクターづくりは、好きな方はたまらなく好きでしょう。そうでない方向けには、そのまま使えるサンプルキャラがルールブックに掲載されており、もう少し凝ったところでは、拙作の作成済みキャラクター集もあります。

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■物語を楽しむ

 キャラクターづくりの過程において、物語欠点というルールがあります。これは、そのキャラクターがメインになるいわば主役シナリオのネタを、プレイヤーの側から提案するものです。こうして提案する報償として、キャラクターに美点(有利な特徴)を持たせられるようになっています。

 マスターの側はそれを受けて、シナリオやキャンペーンのプロットを練っていきます。各々のプレイヤーからこうして提案が来るわけですから、それらを拾って相互作用をもたせていくのがマスターの腕の見せ所になります。まあみんなでネタ出し会をしているようなもの。

 ちなみに、アルス・マギカではプレイグループのことをトループ(=劇団一座の意)、マスターのことをストーリーガイドと呼びます。なんとなく位置づけが伝わりますか?

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