呪文
■月紡ぎ
Muto-Ignem(Animal)20 R:接触
D:太陽/永続 T:小 焦点具:紡車(+5)
射しこむ月の光を、指先で糸のように"紡ぐ"ことができる。こうして紡ぎ出した糸には重みが全くなく、織り上げると黄みがかった光沢を帯びた美しい銀布となる。そのなめらかな手触りは、遙か東方、キャセイの地でつくられる絹のごとくと評される。
この呪文は、半月〜満月の夜にしかかけられない。一度かけると、月が雲間に隠れるなどして月光が射さなくなるまで、紡ぎ続けることができる。なお、糸をきれいに紡ぐために、術者は〔【器用】+〈製作(布)〉〕でシンプルダイスを振り、難易度6を出すこと。出来映えもこの達成値に依存する。
意外にも光は
Imaginem でなく Ignem の領分です。Imaginem
の視覚はあくまで「目への映り方」に過ぎないわけで、Mutoしても、本当の意味で月光のドレスを着ることにはならないんですな。
では言葉(音)は、というと難しい。空気の振動は"中世世界のパラダイム"にはありませんから、Auram
というわけにはいきません。考えていくと、コトはだんだん哲学的な様相を帯びてきます。まあもっとも、「氷室には凍らせた片想いの言葉が積み重なっていた」とかというロマンティックな(?)使い道なら、かえって
Imaginem
の方がそれらしいかもしれませんが。
■ビヒモスの口
Perdo-Aquam(Corpus)1 R:自身
D:太陽 T:小 焦点具:枯れ池の土(+1)
術者はどんな量の液体でも飲み干すことができるようになる。飲む速度は通常と変わらないが、ひたすら飲み続ければ、文字通り"湖の水を飲み干すことだってできる"のである。
ただ、液体自体は呑みこむや否や消滅してしまうので、結果的に、呪文の持続中は水分を一切摂ることができない。実際、元になった妖精魔法“永劫干せる酒瓶(The
Ever-Empty Flagon)”は、それを目的とした呪であった。
なんとレベルは
1! 即興で楽々ですね。どんなマギも「泥棒さん」になれます(笑)
■ペルセウスの鏡の盾
Rego-Vin非限定 R:伸腕
D:集中 T:特殊 焦点具:鏡(+3)
術者の正面に、魔力でできた不可視の鏡を立てる。この鏡のある方向から術者に向けられた魔法は、レベルが“ペルセウスの鏡の盾”より低いかぎり、唱えた者へと跳ね返される。鏡はつねに術者の正面に立ちつづけるので、術者が向きを変えれば鏡もそれに伴って移動する。
なお、原理的に、一枚の鏡は一つの魔法しか処理できない。すなわち、厳密には反射でなく、一旦鏡の内に取りこんでそれを反対側に解放するというメカニズムであり、解放の際に鏡という容器は割れてしまうのである。
あんまり面白味のない呪文ですが、ArMだとどういう手段で実現できるかなぁ…と。WGREに載っている“呪網(Spell
Net)”は、同目的をいかにも妖精魔法らしい形で行っています。同じ「容器創造」の原理をとってはいるのですが、全面的に負けた感じ。
呪文反射にはこれ以外にも、MuVi
で「呪文の対象を書き換える」というアイディアもありそうですが、まさか相手と呼吸は合わせられないでしょうから、速唱すなわち即興魔法での実行を余儀なくされます。ですから、この目的に限っていえば、あまり効果的ではありません。
……あれこれ書いてきましたが、こんな回りくどいことを考えるより、「レベルがReVi呪文の半分以下の魔法を反射する」という辺りでストレートに手を打ってしまってよいのかもしれません。ガイドラインに無いとはいえ、それに拘束されるべきものではなし、バランス的にあながち悪いとも思えません。
■俊足アキレウス
Rego-Corpus 10 R:自身/接触
D:集中 T:個 焦点具:靴(+2)
術者の走る速度を7の7倍する。そのさまたるや、上半身不動のまま足にいくつもの残像がみえるほどである。詠唱後はすぐに駆け出さねばならず、全力疾走をやめると同時に効果は終了する。
この呪文の力があれば、水上でさえも、左足が沈む前に右足を踏み出し、その右足が沈む前に左足を踏み出し…という要領で、一気に駆け抜けることができてしまう。
開発時に特別な配慮がなされているため、呪文維持の集中判定は、全力疾走中にかぎり必要ない。ただし毎ラウンド難易度6の〈運動〉判定を行わねばならず、失敗すればつまづいて転倒し、ボッチすれば凄まじい勢いで障害物に激突する。
なお、“俊足アキレウス”の対象者の行く手に、同方向へ歩いていく亀がいると、いかに頑張ってもその亀を追い越せないという不可思議な現象が報告されている。哲学のドクトルでもあるイェルビトン派のゼノンは、この呪文の専修書を著し、その中で運動の概念を否定した。多くのマギが同書をめぐって口角泡を飛ばし、いまだに百家争鳴が続いている。
かなりギャグです。いわゆる「忍者走り」の呪文。水面を移動したいなら素直にReAqを使えという話もありますが(そちらなら5レベル程度?)まあ雰囲気で。赤帽士のみなさん、こんな靴に御用ありませんか?
■漂う羽の贈り物
Muto-Corpus 10 R:自身/接触
D:集中 T:個 焦点具:鳥の羽毛(+5)
この呪文を唱えると、対象の人間の体重は鳥の羽毛ほどに軽くなる。持ち物に対応した術法を投射制約として追加すれば、それらの重みも軽減される。
伝承ヨーロッパは"中世世界のパラダイム"でアリストテレスの物理学に従うので、軽い物は重い物より落下速度が遅い。風に支えられるためもあり、この呪文の影響下なら高い場所から落ちてもそれなりに安全である。
一方で、強い風が吹いているときにこの呪文を唱えるのは、いささか危険が伴う。たとえ地面に立っていても、突風にさらわれて、上空に吹き上げられないともかぎらない。徒弟の少女ドロシーが大竜巻で見知らぬ国まで飛ばされた話はよく知られている。
空中浮遊も素直に考えれば
CrAu や ReAu、あるいは ReCo
となります。実際、そちらの方がレベルも低くて済むでしょう。Mutoの専門家ならこういうアプローチも考えられるか、という程度で。(最後の一文はもちろんジョークです。まともな伝承ヨーロッパに持ちこんではいけません。でもあの国の名前は調べてみると愉しいかも(^^))。
ところで、ジョージ・マクドナルドは『ふんわり王女』で、魔女の呪いのために"重さ"を無くしてしまったお姫さまの顛末を描いているのですが、そこでは体の重さは精神的な落ち着きと不可分であり、さらに深読みするならば、人間として/女性としての成熟のメタファーとも取れます。どこか"翔んでる"人の多い(←偏見)メリニータ派のことも、そんなコンテクストで見ると面白いかも。妖精魔法の特殊パラメータに似合いそうな効果でもありますし。
■偽りの御告げ
Creo-Mentem 5 R:目/誘導呪物
D:一瞬 T:個/境界 焦点具:絵画(+5)
対象の脳裏に、一瞬の鮮烈な情景を浮かび上がらせる。見せる情景は、術者が任意に設定できる(プレイヤーはよく描写すること)。焦点具とする絵画は、その情景を描いたものでなければならない。
つまりは相手に紛い物の《幻視》を見せる呪文です。一般人にそんな体験あるわけがなく、たぶん神の啓示だと勘違いします(♪Ave
Maria Gratia Plena...)。ぜひとも定式呪文として修得してやってください。詠唱や身振りを楽に省けますし、ウィースで対象を増幅するのも楽しいです。わくわく(←罰当たり)。
■龍のまなこ
Perdo-Mentem 45 R:目
D:条件 T:個,妖精 焦点具:龍の目(+7)
瞬きもせずに目の奥底を覗きこみ、不思議に心を惹く謎かけをする。これに三度応答してしまうと、対象は完全な記憶喪失に陥る。謎かけの内容をつきとめ、それを解くまでは、記憶は戻らない。制約術法にIntellegoを追加することで、特定の一部のみを消すことも可能である。
Perdoの効果をわざわざ「一瞬」から、永続系に伸ばしているのがミソ。PeMe(In)10の“ほんのひとときの記憶を失い”でお分かりのとおり、「一瞬」だと詠唱時に一旦は忘れますが、あとで自然の摂理で思い出す余地があります。ところが呪文がずっと作用しているならば、そのあいだは絶対に思い出せません。
持続パラメタの「条件/Until(Condition)」は、WGREで追加された妖精魔法のものです。基本的に「永続」と同じですが、ディスペルができません。その代わり、呪文開発時に決めた特定の条件が発生すると、自動的に解けます。鉄で叩いたら正体が現れたとか、キリストの名を口にしたら妖精郷から追い出されたとか、そういうシチュエーションの再現に役立つルールですね。
上の例文では謎かけを条件に設定していますが、「実の兄と結婚する」とか「奪った宝を返す」とかといった、皮肉な/無茶な条件をふっかけるのも面白いでしょう。え、条件は開発時で固定だろうって? なーに、詠唱するたびにMuViのメタ魔法でカスタマイズしてやりゃあいい話ですよ。
■Regulus召喚
Creo-Animal(Pe,Re,Co,Ig)
30 R:接触/近距離 D:集中 T:個 焦点具:ヒキガエル(+2)
かりそめのバジリスクを生み出して使役する。現れたバジリスクはきわめて忠実だが、術者の集中が乱れると、溶けるように宙に消えてしまう。この呪文の詠唱時にボッチした場合、バジリスクは現れるものの、術者の制御にしたがわない。
バジリスクのデータは"Medieval Bestiary RE"のp.95を参照のこと。動物や人間をにらみ殺したり、炎を吹いたり。かみつけば致死毒、武器で攻撃しただけでも命に関わる。ただしイタチが天敵。
“Regulus召喚”といっても、当サイトの管理者を呼び出すわけではありません(笑) バジリスクのことをラテン語だと
Regulus って言うのね。
いわゆるサモン・モンスターの使い勝手を目指したものですが、ヘルメス魔術理論の「誘導呪物の限界」から、まったく異なる原理をとっています。CrAnの魔獣創造で一時的に作りだし、制約術法としてかませたRegoで制御しているのです。他にかかっているPerdo・Corpus・Ignemは、バジリスクのもつ特殊能力に由来するもの。
創造する魔獣になぜバジリスクを選んだかというと、CrAnによる創造は、被造物の大きさとともに困難になるからです。バジリスクは凄まじい破壊力をもちながらサイズがたったの−4。こんなにコストパフォーマンスの良い奴は他にはいませんよ。まぁ実力値が呪文レベルでキャップされますから、本物ほどの力はありませんがね。
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